広島で被爆し、被爆者援護法に基づいた健康管理手当てを受けていたが、韓国への帰国を理由に手当てを打ち切られた韓国人の郭貴勲さん(78)が、「韓国への帰国を理由にして手当てを支給しないのは違法」として、日本政府と大阪府に被爆者としての地位確認と手当支給を求めた裁判は、2001年6月の大阪地裁、そして今月5日の大阪高裁と郭さんが勝訴した。在外被爆者が同様の訴訟を起こした事件はこれまで7件あり、判決は分かれているが、高裁での判決は初めてだ。郭さんはこのほど上京し、上告断念を国会議員に訴えるとともに、これまでの思いを語った。
韓国原爆被害者協会元会長の郭貴勲さんは、戦時中に徴用されて広島の部隊に配属され、そこで被爆し大火傷を負った。
98年に渡日し、大阪府の阪南中央病院で治療を受けた際、被爆者の認定を受け、大阪府から被爆者手帳と月額3万4000円の手当を受け取っていた。
しかし、郭さんが韓国に戻ると大阪府は失権させて手当を打ち切った。日本にいれば法的に「被爆者」であり援護法の適用を受けられるが、国外に出ると「被爆者」でなくなるためだ。
このような「非人道的な扱い」に怒り、郭さんは98年10月、日本政府と大阪府に対し、処分取り消しと200万円の損害賠償を求めて地裁に提訴していた。
弁護団は、「昨年6月の大阪地裁の判決を受けて、控訴断念を求めたが、それはできなかった。今回も19日が控訴期限なので、それまでに上告断念を求めたい。坂口厚生労働大臣と法務大臣に申し入れを行っている、太田房江・大阪府知事は断念の意向だし、厚労相も考えてほしい。上告は、人道にもとる行為」と述べた。
広島・長崎の被爆者約70万人のうち、1割にあたる約7万人が韓国人被爆者だった。在外被爆者は現在、韓国2100人、北朝鮮1000人、米国1000人、中南米に160人いる。
会見要旨「諦めなかった勝利」
日本にいても韓国にいても、被爆者は被爆者だ。当然の判決が出た。韓国で被爆者手帳を持つ人が少ないのはなぜか。徴用などで連れてこられて、日本の字も読めない、言葉もできなかったからだ。いまになってどうやって被爆の証人を探せるだろうか。
韓国人被爆者は本当に悲惨な現実を生きてきた。それを語るだけで涙が出る。貧困で日本に来る費用もない。だからあきらめている人が多い。それに手当が出ても日本に来る飛行機代にもならないからだ。
毎年韓国で100人が亡くなっている現状をどう考えるのか。カネのためではない。人権・人道のために裁判を闘っている。
今年、韓日は仲良くやっているが、年取った人には不信感は消えていない人が多い。例えば、小泉首相は戦犯を祭る靖国神社に参拝した。これで過去の戦争を反省しているといえるのか。
日本が上告したら、判決までに被爆者で生き残る人は少ないだろう。死ぬのを待つようなことはしないでほしい。