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2002/05/17

<在日社会>映画「KT」が静かな反響

  • zainichi_020517.jpg

    演出中の阪本順治監督(右)

 野党政治家の金大中氏(現大統領)が1973年、来日中に都内のホテルから拉致されたいわゆる金大中事件を題材にした韓日合作映画「KT」が、韓日で同時公開中だ。映画には、在日韓国人2世の青年が金大中氏のボディーガードとして登場、物語の進行役を果たしている。

 KTとは、「金大中」のイニシャルからとった拉致暗殺命令「KT作戦」のこと。中薗英助の実録小説「拉致―知られざる金大中事件」を原作にしており、4年前から映画化に向けて準備を重ねた。

 阪本監督は、なぜ今『KT』なのかとの問いに、「サッカー・ワールドカップの日韓共催が決まり、このところにわか日韓関係が動き始めているが、全くの「空虚」にしか思えない。うわべだけの付き合いばっかりだ。そうではなく”政治的に意味合いのあるもの”を作ってみたかった。それに現政権(金大中)だからこそ意味があると思った」と話す。

 また、「この事件は今まで金大中氏ひとりの証言しかなかった。この事件に関係したと見られる人たちの証言は何もないからこそ、『もしかして』という仮説を大胆に立てて、真っ向から事件と対峙したかった。そして組織の末端にいる人間の矛盾や苦悩する姿、挫折感みたいなものを描きたかった」と強調する。

 映画では、金大中氏のボディーガードとして韓国語を話せない在日2世の青年が登場し、徐々に民族意識に目覚めるシーンを見て、当時の在日青年の民族に対する思いや祖国への関心がよく表現されていると評価したり、あの時代の2世はあんな感じだったのと興味深げに感想を話す3世もいる。

 阪本監督は、「もともと大阪出身なので、子どもの頃からいろいろな在日の人たちを見て育った。突然本名宣言した友人もいたし、いろんな差別も目の当たりにしたので、自分なりの”在日のイメージ”を持った。差別だけでは映画は撮影できないが、思うところはあった」と話す。

 阪本監督は釜山映画祭に参加し、また今回の撮影を通じて、韓国の映画人とも親しくなった。

 「韓国映画は今まさに黄金期。多くの可能性を秘めていてうらやましい」

 映画は今月3日に韓日同時公開。日本では高い関心を集め、25日から全国70館で拡大上映されることが決定した。

 しかし韓国での関心はもう一つで、上映打ち切りを決めた劇場もある。最近の不祥事続きによる金大中大統領の不人気と、事件が日本人の視点で作られていて、韓国人から見ると真相究明が不十分と感じられたためと見られている。