◆ 千載一隅のチャンス逃す
㈱ドラゴンの発起人会議が20日開かれ、清算手続きに入ることを決めた。ドラゴン銀行構想の断念であり、在日銀行の夢がはかなく消えた瞬間だ。集まった資本金167億円は、この10カ月間の経費やコンサルタント会社「PWC」に使われた3億円余を差し引いて清算されることになった。
当事者にしてみれば、「受け皿銀行の必要性はまだあっても、4月からは公的資金という贈与金が入らない。それなしで銀行をつくるのは無理だ」と諦めるしかなかったのだろう。
千載一遇のチャンスを逃したわけだが、その影響は大きい。リーダーシップの欠如で内部から銀行設立に反旗を翻させられた民団中央本部は「予想外の結果で落胆も大きいが、その影響は深刻だ」と受け止めているが、影響は想像以上に深刻となるのは誰の目にも明らかだ。
間近に迫ったペイオフ解禁を前に、日本の金融界ではすでに本格的な預金移動が始まっている。在日金融通は、「預金の元本が1000万円までしか保証されないのだから、預金分散を図るのは当然の心理であり、朝鮮奨学会が東京商銀に預金している数億円を日本の大手金融機関に移し変えを決めている。日本の各自治体ですら預金の移し変えで慌てている時なのだ」と話した。
◆ 朝銀の受け皿も可能だった
ペイオフ後には、各金融機関は文字通り必死の経営努力なしには生き残れない。しかもペイオフ後に破たんすれば、資金贈与がないため、受け皿を探すのも容易でない。そのまま清算に追い込まれる可能性が極めて高い。朝鮮総連系でも、朝銀信組が相次ぎ倒産、在日朝鮮信用組合協会は3月に解散する事態に陥ったが、関係者はだれもが先行き不安感を覚えていることだろう。
朝銀と取引のある元総連系商工人は、「もし銀行ができれば取引を考えていた。いままで朝銀と長い付き合いがあるのに商銀に移るのは抵抗があった。銀行なら敷居が高くない。行き易い」と語った。また、別の民団系商工人は、「銀行であれば、商銀だろうが朝銀だろうが受け皿になり得る。受け皿機能として銀行の存在は極めて重要だった」と力説した。
銀行づくりの成り行きを注目していた在日識者は「在日社会ではもうワンジェネレーションは求心体となるものが必要だ。銀行が民団、総連の組織の枠を超えて、全国的な在日のセンターとしてその中枢の役割を果たせるものと思ったのに残念だ。総連だけでなく日本国籍に帰化した20万人以上の同胞も思想やイデオロギーと全く関係ない銀行ならばという気持ちになったかも知れない」と指摘した。東京商銀の出資金が紙屑となった年配の組合員は、「植民地にさせられた民族と言われても仕方ない。日帝36年間の教訓も忘れて内輪でガタガタして、全く情けないことだ」と嘆いた。
◆ ドンキホーテが必要だの声
韓国政府と在日社会からの要望を受け、日本の金融当局も「これ以上、銀行を不許可にできない」と判断したはずだ。そうした脈絡の中で、一昨年12月に早めて関西興銀と東京商銀の破たんを発表した。当然、駐日大使館の了承を得ている。ところが、日本当局としては模様眺めでいたら、内部で争い始め入札になった。銀行を許可しなくても名分が立つことになり、在日が在日を駄目にしてしまった。
本紙の在日読者からは「汚名を返上しなければならない。植民地支配された時代にも死を賭して闘った独立運動家がたくさんいた。いまとなってはドンキホーテ的かもしれないが、最後まで初志を貫徹してほしい」と訴える声が届いている。
ともかく、在日の将来を見据えた選択ではなかった。しかも、そこには黒い影までちらついている。腐敗臭も漂う、なんとも後味の悪い結末だった。