在日2世の実業家、河正雄さん(64、光州市立美術館名誉館長、埼玉県川口市在住)がこのほど、韓国の朝鮮大学から名誉美術学博士の学位を授与された。韓国の大学が同学位を授与したのは初めてのことだ。河さんは長年にわたって光州市に2000点の美術品を寄贈し続けており、その功績が認められたものだ。地元紙の湖南新聞は社説を掲載、河さんの活動を高く評価した。
河さんは、光州市に3回にわたり2000点もの貴重な美術品を寄贈した実績が評価され、先月21日に朝鮮大から名誉美術学博士学位を授与された。美術学博士学位は地域で初めての授与であり、名誉美術学博士学位もまた国内大学で初めて授与されたものだ。
河さんが、収集した作品200点余りを初めて寄贈したのは93年のこと。その年、黄栄性・朝鮮大学教授(美術学科)教授から学位授与の打診があったが、「そのときは無知と無教養、人格的に未熟であることが恥ずかし思い、朝鮮大の名誉を汚すのではないかと心配になって受諾をためらった」という。
その後も授与の話があったが、10年間学位受諾を躊躇してきた。
河さんの寄贈作品2000余点は、金額に換算すると数百億ウオン台に達し、河さんは生涯の財産、生命と同様に扱ってきた。
「私の人生の全てを捧げたものだ。光州市民がその気持ちを理解し、ひいては私のようなメセナ活動をする企業人が続々と出てくることが私の願いだ」と話す。
河さんが収集、寄贈した作品群は〝祈り〟すなわち平和への祈念、何の罪もないのに犠牲となった在日韓国人の英霊と光州抗争の英霊に対する鎮魂の意味がある。
光州市立美術館で開幕した「河正雄第3回寄贈作特別展」に先立って開かれた講演で河さんは、自身の哲学とメセナ精神について、次のように述べた。
「私のコレクションのコンセプトである祈り意味を理解してほしい。平和への祈念、愛と慈悲の心に溢れた祈り、犠牲となった人々や虐待された人々、あるいは社会的弱者や韓日間の痛ましい歴史と共に日本で生きてきた私の生涯だ」
学位証を授与した梁亨一朝鮮大総長は、「ルネッサンス期のイタリアにはメディチ家など多くの貴族が学問・芸術の保護を行ったが、河先生は個人の努力と力だけで成し遂げた。光州は河正雄先生の寄贈品を通じて新しいルネッサンス精神を構築しよう」と述べた。
地元紙の湖南新聞は、「高く生きる河正雄氏の〝寄付精神〟」と題した社説で、「われわれの社会は全般的に寄付精神が希薄だ。一生懸命お金を稼いで金持ちになると個人と家門の栄光にはなっても社会のために何かをするという点では、西欧諸国に比べて乏しい。それでこのような慣行を破る篤志家を見ると、尊敬の念の湧き上がらざるを得ない」と述べた。
さらに、「美術品も、苦しい時代の在日僑胞作家や不遇の環境にある国内作家、民衆美術作家の作品などが含まれ収蔵価値が高い。寄贈者の趣旨を汲み取り、地域の美術発展はもちろんメセナ運動に広がるよう市は管理にも神経を使わなくてはいけない」とした。
最後に「河氏に光州市民の名で感謝の気持ちを伝え、それに見合った礼遇と心からの感謝を市次元で必ずしなくてはいけないだろう」と強調した。