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2003/07/11

<在日社会>在日韓国婦人会座談会

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    在日高齢者問題への取り組みを語る婦人会中央本部の幹部。
    (民団中央会館会議室)

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    金定子・在日韓国婦人会中央本部会長からのメッセージ

 5人に1人が65歳以上という超高齢社会に入りつつある日本。老後をどう過ごすかは社会的にも重要な問題になってきている。在日社会でもこの問題に対する関心が高まりをみせるようになり、在日韓国婦人会は在日のための老人ホーム建設運動を展開している。金定子会長ほか婦人会中央本部の幹部7人に高齢者問題への取り組みを語っていただいた。

 司会 婦人会が昨年、老人ホーム建設を打ち出して話題になりましたが、進展状況はどうなっていますか。

 金定子会長(写真:中央)
 私たちが老人ホームを建設しようと話して1年近くたちますが、実際に運動を始めたのは昨年の11月からです。それに向かって一生懸命頑張っていますが、なかなか思うように行かないところがあります。
 婦人会としては、保険の利益の中から老人ホームの建設資金を捻出しようと「ムクゲファミリー」という名前で保険加入運動を展開していますが、既に他の保険に入っている方が多く、以前から月に何万円もの保険を払っているので、これ以上出せないという人も少なくありません。しかし、一生懸命頑張ってやりましょうと言ってくれる方もいて、大阪の方から50万円と100万円の支援がありました。組織としての運動なので、長い目で見ていかないといけないと思っています。

 崔金粉常任顧問(写真:右から3人目)
 この老人ホーム建設問題は取り組んでまだ日数も浅く、これからだと思います。婦人会では今年、全国7カ所で研修を行いましたが、研修会の大きなテーマは老人福祉問題です。みなさんの反応は老人ホームが是非とも必要というもので、その重要性を理解はしています。ただし、会長もおっしゃられたように、保険加入が今ひとつ伸びていません。在日社会は大変な不景気な時期ですので、理屈ではわかっていても難しい面があります。それで執行部は研修会で、老人福祉問題を理論的に納得してもらおうと力を入れたわけです。

 鄭月香副会長(写真:左から3人目)
 みなさん高齢ではあっても、今のところ元気なので実感がないようです。私自身も、年を取ったら子どもの世話にならずに老人ホームの方がいいなぐらいに漠然と思っていました。ところが、1年前にちょっと体を壊して、はじめて現実問題として絶対必要だと実感しました。

 金英淑厚生部長(写真:左から2人目)
 若い人に「ムクゲファミリー」の保険のことを話すと、それがいいと納得してくれるのですが、私たちのように60歳を過ぎたみなさんは保険の意味がよくわからないようです。

 鄭月香副会長 研修を通じて、みなさんも理解しつつあります。

 金定子会長 研修会では最初、老人ホームができればいいし、できなければできないで仕方がないという雰囲気がありました。しかし、1年以内に老人ホーム建設の書類を提出しないと日本政府の資金支援が得られないと話したら、とたんに耳を傾け、目の色が変わってきました。このままでは建つのに10年位かかると話すと、そのとき初めて目覚めたような顔になってきたのをみて、必ずできると自信を持ちました。
 日本政府はこれまで、老人福祉にかかわる建設資金を補助してきましたが、2年後にそれが打ち切られるので、あまり時間の余裕がありません。

 鄭月香副会長 老人ホームをいやという人はいなかったですね。

 金定子会長 いまでは民団も老人ホームを作らなくてはいけないと思っています。それで一緒にやりましょうと話しています。

 崔順禮財政部長(写真:右)
 現に西東京市では既に去年の11月から建設資金補助は打ち切られています。環境がいいので、たくさんの老人ホームが建設されたからです。これ以上国に頼って建設はできなくなりました。


 司会 現執行部の任期内建設が目標ですが、あと2年しかありません。展望はどうですか。

 崔金粉常任顧問 在日社会には55年の歴史を持つ婦人会がありますが、これまで老人ホームに目が向いていませんでした。祖国統一などたくさんの問題があって、私たち自身の問題を考える暇がなかったのです。金会長の時代になって、やっと本格的に考えましょうとなったのですが、ある程度のメドをつけたいですね。いま、全国を回ってみますと厳しい現実に直面します。この厳しい現実をどう打開すればいいか、いい知恵を集めなければならないと思っています。

 金定子会長 みんなまだ、自分の問題として身に滲みていないと思います。もし、いまこの問題に取り組まないと、在日の40代、50代の人たちが苦しむ時代が来ます。みんな年老いた親を放っておけないものですが、自分の生活だけで手一杯で、親の面倒を見られなくなるかも知れません。そんな若い世代を助けてほしいですね。そのためにも老人ホーム建設の啓蒙活動が必要だと思っています。

 金英子総務部長(写真:右から2人目)
 在日高齢者の間には、どうも老人ホームには入りたくないという傾向があります。ところが、私たち40代の世代の人に話してみると、是非老人ホームを作ってほしいという意見がほとんどでした。親を見る立場からすれば、実際問題としてお嫁さんとか子どもの肩にのしかかってくるからです。老人ホームに入る人よりも面倒をみる方が切羽詰まっている場合もあるようです。

 金定子会長 私もそれを説明しています。自分たちの時代はもういいけれど、若い子どもたちの時代が困ると。そのことを若い世代の人たちに向かってもっとアピールする必要があります。

 朴昭子青年部長(写真:左)
 会長が一生懸命、全国に呼びかけているので、全国的にこの問題が浸透しているのは事実です。実際、私の場合も、何人かに保険に入ってもらいました。いま会長が一生懸命種を蒔いているので、いずれ花を咲かせる時期が来ると感じています。  

 金定子会長 先ほども言いましたが、2年内に形をつくれるよう民団と力を合わせてやります。これは婦人会だけの仕事ではなく在日の仕事です。種は婦人会が蒔きました。花や実は誰が取ってもいい。多分、近々書類提出の案が出ると思います。最低2カ所位建設候補地を選定し、申請に間に合わせなければいけないので、それに邁進します。

 崔金粉常任顧問 本国から大統領夫妻が来日した際、令夫人に食事会に招かれて私たち婦人会何人かで伺った折、率直に今の実情を申し上げて、老人ホーム建設など婦人会の活動を簡略に説明しました。そして、活動への後援をお願いしたら令夫人は頷いていらっしゃいました。本国へ行くときは要望書を持って再度お願いに上がらなくてはいけないと思っています。


 司会 在日のためといいますが、どんな老人ホームにする構想ですか。

 鄭月香副会長 私は川崎に住んでいますが、川崎の桜本には社会福祉法人の青丘社があります。そこの活動がマスコミで紹介されたのをたまたま目にしました。昨年から介護保険を始めたところ、最初は全然反応がなかったそうです。あの地域には在日のお年寄りがたくさん住んでいますが、介護保険を使いなさいといってもお金をとられるから嫌だと言って、一切使わない人が多いそうです。在日の高齢者は長年日本に住んでいても、倒れたり寝たきりになると日本語を忘れてしまって、ウリマル(韓国語)しか出なくなってしまうといいます。お嫁さんも日本人が多かったりして、意思疎通が出来なくなり、お舅やお姑さん達はイライラして次第に話しをしなくなるそうです。青丘社ではそのような老人を4人位ずつ集めて、食事を出したり、ウリマルのできる同胞の人を呼んだりすると、徐々に笑顔を取り戻し、日本語が出てくるようになり元気になりました。マスコミの反響はものすごいもので、今までいくら介護を使いなさい、国に認定されたら保険が出ますよと言っても嫌だ、嫌だと言っていたのが、あっという間に変わったそうです。自分の国の言葉で、自分の国の食事を遠慮なくできるということは実はものすごく大事なことです。そういうことを目指しています。

 金定子会長 一時バブル時代には在日に貧乏人がいるのかというくらいに生活が豊かになりました。50年前の苦しい時代を全部忘れて、バブル時代の最高にいい時代の生活意識を今だに持っています。だから老人ホームに入らなくてもいいと言う方も結構います。私は違うと思います。豊かであっても年老いてくると若い子どもたちが困ります。事業をやっている人はそれなりに忙しいから、ボケたら一人では置いておけません。

 鄭月香副会長 私も1年前までは漠然と考えていました。子どもには世話にならないと。でも心の中では子どもが見るだろうという意識がありました。しかし、実際問題としては精神的にも子どもに負担がかかります。ちょうど1年間具合を悪くして子どもに面倒見てもらって、その1年間で子どもがげっそりするのがわかりました。

 崔順禮財政部長 介護保険を理解しているので、私の住んでいるところでは介護保険に対する認識も高く、ほとんどの人が保険に入っています。しかし、会長の言うとおり、老人ホームの必要性を真剣には感じていないかも知れません。でも、私は希望を捨てず、「在日の老人ホームができれば私たちの老後はこんなに素晴らしくなるのよ」と説いていく考えです。

 金定子会長 何はともあれ1つ建設すれば、「ああこれは必要だ」と実感してもらえるのではないでしょうか。老人ホームが必要だと言うより、仲間が集まってそこに生活している、一人暮らしで寂しい人がそこへ来て動けない人のケアをしてあげながら自分もそこで楽しむ、そんな部落的な雰囲気の老人ホームを作りたいと思っています。とにかく早く1つ建てるために全力を注ぎます。

 金英淑厚生部長 うちの近所にはお年寄りがいっぱいいます。お嫁さんが外で働いて、お年寄りが家のことをしていました。そうなると1日中一人で、人と話す機会がない。これではいけないと思い1カ月に1回位、老人を集めて料理をつつきながら話す機会を作っています。1日中話します。話す機会がなくなるとボケが早いといいます。
 若い人たちは保険の必要性をわかっていますが、当の老人たちはそう感じていないので、老人ホームが1カ所でも建って、そこで韓国料理を食べたり、歌を歌ったり、おしゃべりしているのを見たらきっと皆入りたいと思うようになるでしょう。そういう希望を持って一生懸命この事業に取り組んでいます。

 金定子会長 月1回か2回、民団事務所に、ご老人が自由に出入りできる日を決めて、そこでスープやご飯を出すようなことができればいいのですけど。

 鄭月香副会長 保険金の支払いを含め面倒を見るのは子どもになるので、若い人を啓蒙していかないといけないですね。

 金英子総務部長 私は40代ですが、同世代の人で民団にかかわっている人はあまりいません。民団は何をしているのと聞かれることもあります。そこで、いま老人ホームの建設に向かって活動していますと話すと、目を見張ってくれます。老人ホーム建設を打ち出してからは、そのことを言うようにしています。すると「すごいね」と賛同してくれて、中には介護士の資格を持つ人が完成したらそこでボランティアとして働きたいと言ってくれたこともあります。歯科医師でもウリナラサラム(韓国人)のために歯科医として手伝いたいという人もいます。若い人はボランティア活動に意欲的です。
 とにかく物が建たないことにはそうした人材を生かすことができません。みなさん、日本の施設でボランティア活動をしています。同胞の老人ホームができれば、同じ同胞として助け合いたいという若い人が本当にいっぱいいます。今までの民団の中でも一番すごい事業が始まったというのが、若い世代としての実感です。
 50年以上経っているので、何か残さないといけない。形として残すということは、後世にも残っていくことになります。是非建てていただきたいというのが若い人たちの願望です。


 司会 在日高齢者福祉に取り組む上で困難なことも多いと思いますが、みなさんの決意をお聞かせ下さい。また、在日社会、日本社会にお願いしたいことがありますか。

 朴貞子青年部長 私は50代半ばですが、この先10年20年経ったら体も頭も段々弱ってきます。そうしたときに息子、嫁、孫に負担をかけないようにしたいと思っています。例えば若い者たちが家族旅行に行くときに1週間でもお世話になれる第2の自宅ができればすばらしい。是非実現するよう頑張る決意です。 

 金英淑厚生部長 本当は10年前、いま60代70代の人たちがお金があるときに老人ホームを作っておけばよかったのですが。経済的に苦しいときに取り組まざるを得なくなりましたが、建設まで一生懸命頑張ります。日本の国も在日同胞のための老人ホーム建設に支援・協力していただきたいと思います。

 鄭月香副会長 私は65歳ですが、私以上の年齢の者にはまだまだ儒教の精神が残っています。頭の底では子どもに迷惑をかけたくないと思っても、子どもが老後を見るものだと思っているし、子どもも世間体を考えて俺が見る、私が見ると言います。しかし、この問題は現実的にきちっと話し合っていくべきではないかと思います。息子に婦人会でこういうことをしていて、私は絶対にキムチが食べられるところに入りたいと言ったら、「俺がいるのになんで」と言われました。その言葉を聞いて正直安心はしましたが、私たちも若い人たちももう少し現実を見据えなければいけないと思います。

 崔順禮財政部長 営利を目的とした老人ホームはいっぱいありますが、在日同胞専門の老人ホームを建てるのは初めてです。私自身、そのことにすごく感激しています。老人ホームに関して私は精一杯頑張るつもりだし、絶対に会長の任期中にショートステイでもケアセンターでもいいので、何かの形を残したい。それが希望です。

 金英子総務部長 会長の口癖の「婦人会で始めたことで完成できなかったことはない」という言葉を信じて、役員一丸となって全国を啓蒙できるよう草の根運動を展開し、ぜひ実現させたいという気持ちでいっぱいです。

 崔金粉常任顧問 ほとんど皆さんがおっしゃってくれました。私も大分年を取ってきて切実に老人ホームが必要だと感じています。長い人生の中でヨーロッパやそしてまだ貧しい開発途上の国々を見てきました。外国ではある一定の年齢になると、子どもとは別々の生活をしています。親は子どもに迷惑をかけない。子どもも自分が年を取ったら自分の子に迷惑をかけない。お互いに思いやりの気持ちから割り切った生活をしているのを目の当たりにして、日本の国も在日社会もそうなって欲しいなというのが私の望みでもありました。
 縁あってこの執行部の常任顧問に入りましたが、高齢者問題に取り組むということは、在日社会において、革命と呼んでもいい位大きな事業だと思います。これが実行されれば、在日70万人の140万の目が集中すると思います。そう意味で私たちは、全身全霊を傾けて、あらゆる方法、手段を考え、邁進していかなくてはなりません。そして、多くの方、若い世代にもこの事業に参加して、いいアイデアを出していただきたい。
 老人ホームができた暁には私がまず一番に入りたい(笑)。そこではきっと婦人会の延長になるでしょう。そしたら老人会婦人部を作って、楽しい余生を作っていきたい。これが私の願いです。

 金定子会長 私の母親は90歳になりますが、私が育つころには家の中で韓国語を話すことがほとんどありませんでした。韓国人であることが周囲にわかっていても家では韓国語を話さない時代でした。その母親が最近韓国語を話すようになりました。年を取ると韓国語に戻るということを聞いていましたが、このことだと思いました。その年老いた母が、韓国に帰って教会の老人ホームに入ると言い出しました。なぜそこがいいのかと聞きましたら、お金もかからないし礼拝所もあるし、仲間がいるからそこがいいという答えでした。そこで、「もし日本に韓国人だけの老人ホームがあったら入りたい?」と聞きますと、「あるんだったら入れてほしい」という返事でした。在日もお金を出せば老人ホームに入ることはできますが、言葉の違いや食べ物の違い、文化の違いで寂しい思いをします。
 在日組織が運営する老人ホームなので、無料に等しい金額で入れるようにしたいというのが私たちの気持ちです。無料に近ければ、子どもにも負担にならないし、子どものいない人も入りやすい。そのために婦人会で保険加入運動を進めてきました。この運動は継続的にやっていきます。