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2004/12/03

<在日社会>戦後補償敗訴判決・中山文科相妄言・戦争被害者心情逆なで

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    「最高裁判決は不当」と正門前で抗議する原告ら

 第2次世界大戦当時、旧日本軍の軍人、軍属、そして慰安婦として強制的に動員された韓国人被害者と遺族35人が、日本政府に謝罪と補償を求めて起こした91年12月に起こした裁判の最高裁判決が29日あり、最高裁は訴訟を棄却、原告らの敗訴が確定した。折しも、中山成彬文部科学相の歴史認識をめぐる問題発言で、在日団体などから抗議が続いている最中に起きた判決で、「日本政府は本当に過去を反省し、韓日友好を築く考えがあるのか」との強い批判が、韓国の政府関係者、マスコミ、在日社会などから出ている。

 「あまりにも非人道的な判決だ。14年間の裁判は一体何だったのか」。原告らの怒りの声が最高裁第二小法廷(津野修裁判長)に響き渡った。

 旧日本軍によって従軍させられた韓国人の軍人、軍属、元慰安婦とその遺族ら計35人が、日本政府に一人当たり2000万円の損害賠償と謝罪を求めて訴訟を起こしたのは91年12月。慰安婦にさせられた女性が初めて名乗り出て、日本政府を訴えた裁判として大きな注目を浴びた。

 裁判は第1審、2審ともに原告側の訴えが退けられたが、第2審の東京高裁判決では、旧憲法下では国の行為の責任を問えないとする「国家無答責」の法理を否定するなど、原告の主張に一定配慮した。

 しかし今回の最高裁判決では、原告らの口頭弁論の機会もないまま、「第2次世界大戦中にあった被害補償を憲法は全く予想していない。元慰安婦らの損失は現行憲法の施行前のことであり、現行憲法が適用されないのは明らか」として訴訟を棄却。さらに「訴訟費用は原告が負担する」と短い判決文を読み終わるや退場した。

 戦後補償裁判についてはこの間、「65年の韓日請求権協定で原告の補償請求権が消滅した」との判断が示されており、最高裁もその主張を取り入れたと見られる。

 敗訴が確定したことによって、今後裁判を通じて被害者らが個人補償を受ける道は閉ざされた。 裁判所では「太平洋戦争犠牲者遺族会」メンバーなどの原告が激しく怒り、法廷内に入って抗議するなど、一時騒然とした雰囲気に包まれた。遺族会の梁順任会長は、「過去の問題が解決しない限り、韓日に真の友好は来ない」と怒りを示した。韓国の東亜日報は11月29日付社説「日本の良心はどこに行ったのか」(別掲)で、今回の判決を厳しく批判している。

 中山成彬文部科学相が27日、「歴史教科書で、従軍慰安婦とか強制連行といった言葉が減ってきたのは本当に良かった」と述べ、過去の歴史教科書を批判した問題が、波紋を広げている。

 韓国のマスコミは同発言を厳しく批判、在日韓国民団中央本部は、「無責任極まりない発言に驚きを禁じ得ない」とした孫成吉文教局長名の談話文を発表した。

 子どもと教科書全国ネット21事務局長の俵義文氏によると、中山文科相は97年、「『従軍慰安婦』記述をなぜ検定で削除できないのか』『自虐史観に貫かれた今の歴史教科書を1日も早く改定することが国家百年の計として必要』」と主張してきた人物である。

 中山文部科学相は30日、「大臣になる前の、歴史教育にかかわる議員連盟の座長という個人的な立場から感じていたことを述べたもの」として、「大臣になったからには、かつての個人的な考えについての発言は控えるべきだったかな、と考えている」と述べて、不適切な発言だった点を認めるとともに、慰安婦問題と強制連行について「慰安婦として心身に癒しがたい傷を負われた方々におわびと反省の気持ちを持たなくてはいけないと思っている」としたが、それですむ問題ではない。

 現在、2006年から使用する中学教科書の検定が行われているが、その検定権者である文部科学大臣が検定に圧力を加えた形になるからだ。

◆中山文科相妄言要旨◆

 (歴史教科書について)極めて自虐的で、やっと最近、いわゆる従軍慰安婦とか強制連行といった言葉が減ってきたのは本当に良かった。

 (日本の前途と歴史教育を考える会の座長を務めたが)日本の教科書は政治家が悪いんだと思うが、極めて自虐的な『日本は悪いことばっかしてきた』というもので満ち満ちていた時があった。これは何とか直さないといかんということでやってきた。
 
 どの国の歴史にも光と影はある。悪かったことは反省しないといけないが、すべて悪かったという自虐史観に立った教育だけはしてはいけない。これからの日本を生きる子供たちに、自分たちの民族や歴史に誇りを持って生きていけるような教育をすることが大事だ。

◆最高裁の無情な判決◆

 日本の最高裁判所は、軍人と軍属、慰安婦として強制動員された韓国人戦争被害者と遺族35人が申し立てた補償請求訴訟を棄却した。最高裁は“棄却、訴訟費用は原告負担”という短い宣告文を読んだ後、直ちに退場したと言う。国家の過ちにそっぽを向く恥ずかしい判決なのを、裁判府自ら認めた姿ではないか.日本の良心はどこに行ったのか。

 訴訟には13年を要した。日本の司法が悩んだ証拠だ。またアジア各国で60与件の関連訴訟が続いたのは、国際社会が日本の戦争犯罪を忘れていないという事実をはっきりと示した。しかし最高裁は、「日本政府に補償責任がない”との一言で黙殺した。39年前、請求権という名目で取り繕った日本の戦後責任処理を根拠に、幾多の外国人被害者にそっぽを向いた非人道的判決だと言わざるを得ない。

 日本は国連安全保障理事会常任理事国進出を狙っている。今度の判決で、アジアを戦争の惨禍に追いこんだ過ちに対する反省なしに、世界に影響力をかける席に座ろうとする日本の下心が現われた。反省どころか、日本の文部科学大臣が、「慰安婦と強制連行みたいな表現が減ってきたのはよかった」との妄言をする国だ。

 常任理事国をめざすなら、「日本は反人道的集団」という戦争被害者たちの叫びに答えることから始めなければならない。