水圧を利用してリフトなどを昇降させるシステムを製造・販売する在日企業のサンマックス株式会社(本社東京)の本社工場(埼玉県吉川市)を訪ねた。
12㍍まで昇降可能なポールや荷揚げリフト、スーパーなどの商品陳列の時などに使う高所作業デッキ、消防車など車載伸縮ポールと照明システムなどが所狭しと置かれていた。いずれも水圧を利用して動かす装置であり、過去15年間に1200台以上の納入実績があるという。
在日2世の鄭淳坤社長(67)は、いかにもエンジニアタイプだが、経営者として近年受注先を本格的に広げている。
「注文に応じて企画から製作、出荷まで行っている。スーパーのイオンや消防署、NHK、関電工、東海原子力発電所など納品先は多様だ。東京ディズニーランドのエレクトリカルパレードに使う船のマストも1500万円で納品した。米国のディズニーランド本部の許可が必要なため、米国から何回も関係者が来て調査したが、当社に決まった。紅白歌合戦ハイビジョン用カメラ用の特殊リフトも当社製だ」
圧力をかけて機械を動かす方式には、油圧、空気圧、水圧の3つがある。サンマックス社では水圧を利用しているためアクアリフトと名付けているが、水圧の市場規模は油圧や空気圧に比べ100分の1の数十億円にすぎない。
「もともとはパスカルの原理だ。円の面積に一気圧をかけると30キログラムの力が出る。トンネルを掘るに押しても水路をつくるにしても、戦車も飛行機もそういう圧力を利用している。例えば、飛行機に乗ると羽が動く。着陸の時には足が出る。いずれも油圧で動かしている。空気圧は自動車を持ち上げたりICをつくるのに欠かせない。だが、これからは環境問題が重視される中、水圧に取って代わられると確信している」
日本で水圧専門メーカーはまだ数えるほどしかなく、市場を創り出す課題も背負っている。鄭社長にはそのチャレンジ精神が感じられた。
「温室効果ガス排出を規制する京都議定書が来年から発効する。油圧は廃棄する時にCO2やダイオキシンが出たりする。また使い古された油は地球環境に害になるという問題がある。油圧を抑えようという動きは今後広がるのは必然だ。だが、油圧を水圧に変えると通常コストが高くなる。なぜかというと、水は零度以下になると凍る。また、水を入れると錆びるので、錆びない材料も必要だからだ。これを自社なりに解決してきたが、よりより水圧機器をつくるためさまざま提案している」
「考えているのはいつも先のことであり、毎日がチャレンジだ」という鄭さんは、苦学の人であり、高校も大学も夜間だが研究心は人一倍だ。
「60年代初めごろは耐久実験や過熱実験に使う測定器もなかったので自分でつくった。布団を研究室の横に置いて没頭していたのを思い出す。当時、大阪の太陽鉄工で勤めていたが、有名校出のエリートがみな技術的なことは私に相談にきた」
当時は在日に対する差別が強く、鄭社長は国籍(朝鮮籍)のためつらい目にあった。
「67年ごろ、技術提携のことで米国やフランス、ドイツに出張しなければならなかった。だが、再入国許可書が出ない。米国の領事館では再入国許可書だけあれば手続きはすべてやると親身になってくれたが、日本の法務省はのらりくらりとした対応で、結局あきらめざるを得なかった。ハノーバメッセとかの世界見本市に行くチャンスも何度もあったが、行けなかった。日本籍に変えることを勧める人もいたが、それだけのために変えるのは嫌だった」
鄭社長の人生は試練の連続だったが、民族魂というべきものが片時も離れなかった。その分、在日若も世代へのメッセージにも熱いものがある。
「私の弟は1960年に帰国船に乗って北朝鮮に行ってしまった。祖国は分断されており、北の体制は疑問だが、私たち同胞は対立するのではなく民族意識をしっかり持つべきだと思う。そして、日本社会で私たちが豊かに生活するためには、ハンディがある分、人より2割以上多く仕事をするしかない。いまは在日2世3世もいろいろな職業をもち、世界で活躍している。私自身の体験に照らして、やはり人任せにするのではなく、自らチャレンジすることが重要だといいたい」