今年7月、それまで営んでいた焼肉店をあっさり廃業し、韓国の伝統的な葬儀を執り行う高麗葬礼社を立ち上げた。きっかけは、89年に父親を亡くし、親しくしていた友人が病魔に冒され他界したことだった。
「韓国式の葬儀を出したいと思っても、どうしたらよいのかまったくわからず、右往左往した。周囲からも、親が亡くなったときに、祖国の伝統的な葬儀で送り出したいのに、どうすればいいかわからないという声を聞き、よし、これだと思った」
韓国式の葬儀社は東京と大阪にそれぞれ一軒しかない。困っている在日の人たちの役に立ちたいとずぶの素人が一念発起。韓国仏教道連盟の日本支部に足繁く通ったり、韓国から葬儀関連の資料を取り寄せて必死で勉強し、たった一人で葬礼のマニュアルを作り、営業活動を開始した。
「日本で長いこと苦労を重ねてこられた一世たちを、せめて最後ぐらいは祖国の伝統的葬礼で送り出してあげたい」
韓国寺院の手配から母国語での法要、寿衣(経帷子)、料理まで、すべてを請け負う。韓国は地方によって葬儀のしきたりが違うが、それにも対応し、祖国への埋葬も手伝う。
「日本では死ぬと戒名をつけ、あの世の人になるが、韓国人は死んでもこの世に魂が生き続けると考える。祖国の葬礼文化を在日社会に根付かせたい」
この仕事こそ自分の天職と定め、きょうも「葬儀の伝道師」がゆく。