日本国籍でないことを理由に東京都の管理職試験の受験を拒否され、東京都に対し200万円の慰謝料などを求めた都の保健師、鄭香均さん(54)の裁判が、最高裁の15人の裁判官による憲法判断を受けることになった。定住外国人の人権を最高裁がどう判断するか、裁判の成り行きが注目される。
同裁判では最高裁第3小法廷(藤田宙靖裁判長)が28日に口頭弁論を開く予定になっていた。
最高裁は書面審理中心なので、下級審の判決を維持する場合には口頭弁論を開かないのが通例で、弁論を開くときは判決を見直す場合が多い。
そのため鄭さんの裁判についても、①違憲判断が見直される最悪のケース②違憲判断はそのままに40万円の賠償だけを見直す③外国人が就任できるケースとそうでないケースを厳密にすべきと高裁に差し戻す、の3つが想定されていた。
鄭さんの裁判を支援してきた「都庁国籍任用差別を許さない会」では、この10年の国籍条項撤廃の流れを止めることがないよう、最高裁第3小法廷あての署名活動などに取り組んでいたが、その矢先の1日、事案が大法廷に回付された。
小法廷が弁論の開催を撤回して大法廷に審理を回すのは異例のことで、それだけ重要な事案であり、大法廷で審理を行うべきとの判断が働いたとみられる。今回の回付により審理は最初からやり直されることになり、判断が示される時期も年内は無理と見られている。
今回の憲法判断は、参政権問題も含んだ今後の定住外国人の人権に大きく影響するものとなる。
支援団は「定住外国人に対する人権尊重は時代の流れとして避けられないはず。最高裁の良識を期待したい」と話す。
鄭香均さんは在日韓国人2世で、東京都の保健師に採用されたのは88年。94年に上司の薦めを受けて課長級以上の昇進資格を得るための管理職選考試験に申し込んだが、日本国籍でないことを理由に受験を拒否されたため、受験資格の確認と200万円の損害賠償請求を求めて東京地裁に提訴した。
96年の東京地裁判決では「憲法は外国人が国の統治にかかわる公務員に就任することを保障しておらず、制限は適法」として敗訴した。
97年11月の第2審判決では、東京高裁は「国籍による受験制限は違憲」との判断を示し、東京都に40万円の支払いを命じる逆転勝訴となったが、都が最高裁に上告していた。
◆ 15人の意見をすべて聞きたい・鄭香均さんの話 ◆
「15人の裁判官一人一人の意見をはっきりと聞きたい。外国人の人権が憲法でどこまで守られるのか不透明なまま裁判が行われてきたが、この間、在日外国人の管理職を認めた自治体も出て来ている。裁判からすでに10年が経った。時代の流れを見極め、外国人の人権を尊重した憲法判断が出ることを期待している」