ヒュンダイモータージャパンが日本で販売を開始して今年で4年目に入る。この間、販売店網やアフターサービス網を構築、ネットワークも日本全国に広がりつつあるが、まだ「ヒュンダイ」のブランドイメージは十分浸透していない。今年は体制を再整備して、このブランドイメージをアピールする方針だ。今年1月に就任した京田豊穂社長(写真・上)に今年の経営戦略を聞いた。
--日本進出4年目になります。初めての日本人社長ですが、今年に賭ける抱負をお聞かせください。
ヒュンダイモーターにとって、日本は最後の重要市場であり、ぜひとも成果をあげるよう全力を尽くしたい。これまでの販売実績をみると、初年度は1113台だったが、2年目は2423台に倍増した。だが、昨年は2426台と横ばいに終わった。日本市場の厳しさを改めて痛感しているが、今年はヒュンダイの車を売ってくれる販売店のトップが本気になって取り組めるよう協力体制を強化したい。
--日本市場開拓はなかなか厳しいようですが、今年の販売戦略をお聞かせください。
今年の販売目標は4000台に設定した。昨年の目標7000台に比べればかなり控えめだが、現実路線をとったと考えている。また、人員のスリム化、本社事務所の移転も終え、体制を再整備した。新体制のもとでは、仕事のやり方を変える方針だ。いままでは進出したばかりで試行錯誤もあったが、これからはよりきめ細かな対応をしたい。例えば、在庫車種以外の車の注文が来ても、できるだけ1、2カ月以内で納品できるように努力したい。この面では他の輸入車に比べ地理的な優位性を生かして、お客様の要求に極力お応えしていきたい。また、新体制では、マーケティングを重視してテレビなども使って宣伝を強化する考えだ。
--販売店網の拡大計画をお聞かせください。昨年は100店達成を目標に掲げていましたが。
販売店網は現在、全国に57店あるが、これを今年は65店程度に増やす計画だ。当初、100店を目標にしていたが、当面は数より質を重視することにしている。また、秋田、山梨、奈良、宮崎など販売店のない空白県を無くしたい。輸入車の場合、販売店が最も多いフォルクスワーゲンで約250店、ベンツは200店ほどだ。米国系でも60店ぐらいであり、このようにみると現段階でもヒュンダイはかなりのハイペースで販売店網を拡充してきたといえる。
今年は特に、アフターサービス網を強化、昨年末の170拠点から250拠点に大幅に増やす計画だ。どこでもサービスを受けられるようにすることで、お客様からの信頼性を高めたい。
--ヒュンダイモーターは世界での販売を急速に拡大していますが、日本市場攻略は時間がかかっています。どんな対策を講じる考えですか。
まず、「ヒュンダイ」の認知度を高める必要がある。だが、輸入車で1万台を売るには最短でも14、5年かかっている。時代が違うとはいえ、フォルクスワーゲンの場合、初年度は100台もいかなかったという。今年の目標4000台をクリアし、2007年1万台をめざしたい。これは相当に高い目標かも知れないが、販売店とのコミュニケーションを大事にして売り込んでいきたい。日本で成功するためには、販売店のみなさんが成功し、幸せになるのが私の使命だと考えている。
--現在のラインナップは5車種と聞いていますが、今年の最重点売り込み車種は。
どの車種も選りすぐりだが、売れ行きのいいXGに特に力を入れている。現在の3000ccに加え、3月初めから2500ccを追加し、販売を開始した。秋には新型SUV(多目的スポーツタイプ車)を発売する。これは、「サンタフェ」をやや小型化した車で、若者をターゲットにしている。
--ヒュンダイ車に対するユーザーの反応をお聞かせ下さい。
非常に故障が少ない、トラブルはほとんどないという反応が多い。また、品質がいい、走りがいいという反応も少なくなく、お客さんはとても満足しているようだ。他の輸入車に比べても故障はほんとに少ないが、日本は大切な市場なので特に厳しい検査をして出荷しており、安心して乗っていただきたい。ヒュンダイ車の特徴は「値段に比べて価値が高い」ことだと思う。
--ヒュンダイモーターの世界戦略での日本の位置づけをお聞かせください。
重要な市場であるが、顧客の要求が極めて高い。従って、他社との競争もとても厳しい。しかし、そんな市場で認知されれば、今後年間2、3万台を売ることも可能だと考えている。当初、日本進出時点でのターゲットは若者だったようだが、実際は50代60代の人が多い。日韓文化交流ムードが高まっており、今後若者の間でも韓国車への関心が高まると見ている。
--最後に日本のユーザーへメッセージを。
ヒュンダイモーターは全世界でさまざまな車を販売している世界7位のメーカーである。今年は販売台数でホンダを抜くと報道もされたが、全世界で売れていることをまず知ってほしい。また、価格に対して価値があることも繰り返し強調したい。
◆崔秉夏 ヒュンダイモータージャパン首席コーディネーター奮闘記◆
日本での本格的な韓国車の販売を目的に2000年に設立されたヒュンダイモータージャパン。その設立当初からのメンバーである崔秉夏・首席コーディネーター(写真・下)。46歳の若手ながら本社の理事であり、自動車一筋、世界で最も難しい市場といわれる日本での販売戦略を立案した人物だ。いま営業の第一線で指揮をとっているキーマン・崔氏は、現場重視の戦略家だった。
昨年11月本社から再び送り込まれた。日本での販売が思うようにいかないため、テコ入れのためだ。日本人社長とペアを組んでヒュンダイ車を日本でいかに浸透させるか、手腕が試されている。
「ヒュンダイ車の世界での販売台数は今年330万台を突破、ホンダを抜くと予想されているが、日本ではまだ新生だ。一つひとつの積み重ねが大事であり、ディーラーとお客様に喜んでもらえるよう最善を尽くしたい」
いま日本市場での輸入車のシェアは4%だが、一気に10%になるマーケットではない。外車が完全に認められるのには時間がかかり、新参のヒュンダイモーターが新たに市場を開拓するのは容易でない。秘策はあるのか。
「はっきり言って市場を甘く見ていた。いまは導入期であり、マーケットでヒュンダイのイメージが認知されるのにはまだ時間がかかる。もちろんボリューム(台数)は必要だが、まずお客様を大切にする基盤作りに重点をおいている。そして2、3年後には成長期を迎え、そのときは市場の反応もいまとは全く違ったものになるだろう。その中で市場シェアを確保できると思っている。そのターニングポイントは年間1万台売れた時だ」
戦略のひとつはディーラーにヒュンダイの車を徹底して知ってもらうことだ。そのため特別な対応をしている。
「必ずソウルの本社にご案内し、最新鋭の牙山工場や研究所を見ていただき、ヒュンダイはこんな会社ですよと紹介する。一度見れば、必ず日本で成功すると判断してディーラーになってくれる人が多い。半信半疑の人が工場をみてイメージが変わったこともある。モノを売る人が見るのだから、自動化された最先端工場や徹底した品質管理に魅力を感じてくれたのだと思う。これからもディーラーを増やしていくが、まずモノを売る人がモノに対して確信を持つ必要あるので必ず韓国の工場に案内する」
「一般的にメーカーとディーラーの関係はあまりよくないが、我々としてはまだブランドイメージのない時に半信半疑でも看板掲げてくれた経営判断に感謝している。また、お客様も自分の意志決定で買ってくれたのだからメーカーとしても大事にしていきたい」
崔氏はヒュンダイ車のイメージアップのため、後援会を組織したりイベントしたりするなど地元密着型の工夫を重ねる苦労人でもある。
「札幌で販売店社長の友人を中心に後援会を組織、現在は650人に拡大した。泊まりがけの出張の時は、夜は居酒屋でオープンマインドで話し合う。社長、副社長らに囲まれ6時間にも話が及び、最終便で帰ったこともある」
日本での活動で誇りに感じることも多い。「本社は世界で一番高い顧客の要求を取り入れて、いろいろ改善している。それでユーザーからは、満足している、このコストパフォーマンスでいい車に乗れて嬉しい、部品代も安い、といいアンケート結果が出ている。お客様を大切にしたことの成果かとほっとしている」
財務・企画・経営戦略、そして今は営業マンの崔氏には確固としたポリシーがある。
「あくまで現場重視で、走りながら考える。これが私のポリシーだ。日本が豊かになったのは、モノ作りがよいから売れたのである。韓国の推進力、行動力プラス日本のきめ細かさをミックスすれば最強の営業マンになれると思う」
今後の戦略については、2007年1万台販売に向けての作戦だ。
「当初の計画もいろいろ修正はしている。大事なのはディーラーがやる気になって、よし売ろうという気になれることだと思う。千葉に研究所があり、商品デザインもやっている。1万台販売時にあわせて日本市場用の新車を計画している」
「ヒュンダイの車は本当にほんとうに故障がない、いい車だ。価格に比べて価値がある。部品のランニングコストも安い。メインの牙山工場の完全自動化で安く作れるからだ。アフターサービスもしっかりしている。心配は一切ないので一度乗ってみて、それで評価してほしい」