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2004/03/19

<在日社会>孤高の学者 韓日で教鞭・金サヨプ全集発刊へ

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         『金思燁全集』第1巻の表紙

 国立大学として戦後初めて朝鮮語学科が設置された大阪外語大学の客員教授として、韓国語学・韓国文学を教え、日本に韓国文学を広く伝えるとともに、日本古代文化に残る韓半島文化の発見に尽力した故金サヨク博士の全集が韓国で出版されることになった。25日には韓国大邱市の教育大学で出版記念会が開かれる。

 金サヨプ全集はソウルにある出版社・博而精から発行される。全32巻の大作で金博士の業績の集大成となる。金博士が最初に著した『俗談大辞典』(1940,朝鮮日報出版局)にはじまり、『朝鮮文学史』『古代朝鮮語と日本語』『李朝時代の歌謡研究』『朝鮮の風土と文化』などの著書40冊に300を超える研究論文が収録される。『清渓金サヨプ博士追慕文集』も入る予定だ。

 金博士は1912年、韓国慶尚南道に生まれた。京城帝国大学で韓国語学・韓国文学、日本の古典文学を学び、45年の祖国解放後は大邱の慶北大学で教授を務めた。

 その後来日し、63年から82年まで国立大学としては戦後初めて朝鮮語学科が設立された大阪外語大学で、客員教授として韓国語学・韓国文学を教えた。

 一方、韓国古典文学研究の第一人者として数多くの著作を著し、同研究に大きな足跡を残した。日本で韓国古典文学を学ぶ場がなかった時代、日本の学生に講義を行う一方、日本語による『朝鮮文学史』『朝鮮のこころ』などの発行を通して、韓国古典文学の魅力を日本の読者に伝えた。

 また70年代に入ると『古事記』『万葉集』に残る韓国古代文化の探求に努力し、92年に亡くなられた。

 古代の韓日関係を学問的・体系的に研究する学者が極めて少ない中、日本植民地支配の時代に生まれたため小さいときから日本語を学び、そのため韓日両国の古典を読んで研究を行うことが出来た。

 また韓国は歴史的に、外国の侵略や戦争のために文献や資料が十分に保存されていない。その点、異民族の侵略がなかった日本は比較的多くの文献が保存されていた。韓国では得られない日本の文献を通して、韓国について考察した『万葉集』研究は、その意味で大きな学問的意味があった。

 金博士の全集出版は、金博士の3男の金武完氏が中心になって、韓日の学者などの協力を得て進められた。

 金武完氏は、「父の業績をきちんとした形で残すことは、今後の研究にとって大きな意味があると判断し、兄弟で資金を出し合って出版にこぎつけた。10年後か20年後に父の研究と全集の本当の価値が分かるかもしれない」と話す。

 大阪外語大学朝鮮語学科で金博士に教えを受けた卒業生の一人は、「30年以上前になるが、先生には多くの教えをいただいた。古典文学を体系化し、歌謡研究を掘り下げた先生の功績は大きい。個人で32巻の全集を出すのは、韓国ではほとんど例のないことだと思う。すばらしいことだ」と述べた。

 出版記念会は25日午後2時、大邱市の教育大学講堂で行われる。金博士に教えを受けた韓日の弟子代表のあいさつが予定されている。