成人の日を迎えた12日、在日同胞の新成人7000人(推定)も各地で大人の仲間入りを果たした。在日の新成人が誕生した20年前、在日社会では指紋押捺拒否運動が盛り上がっていた。それから20年経ち、在日新成人のほとんどは3、4世世代だ。彼らは何をめざしすべきなのか。
2004年、在日韓国人の指紋押捺はすでに廃止された。日本人との婚姻、帰化による日本国籍取得も増大している。日本の大手企業やマスコミで活躍する在日青年も登場するなど、在日青年の生き方の選択肢は広まったといえる。
成人を迎えた金秀勇さんは、「在日の歴史的立場を考えたら、国籍が何であっても国政参加の権利があっていいはず」と主張する。
一方、日本社会は生き方の見えない混迷の時代になっており、若者の犯罪も頻発し社会問題となっている。こういう日本社会の状況については在日も無関係ではいられない。
成人になった鄭聖愛さんは、「昨年夏にインド旅行したが人々のパワーに圧倒された。日本は物質的には過剰なほど豊かだが、20歳の自分から見ても精神的に病んでいる。アルバイトで小中学生を教えているが、カンニングや万引きに罪悪感をまったく感じない。高校のときにリストカットを繰り返す友人もいたが、満たされない思いがあるのだろう。心の問題を抱えた若者は周囲に珍しくない」と話す。
フランスの思想家ポールニザンは、「ぼくは20歳だった。それがひとの一生で一番美しい年齢などとだれにも言わせない」との言葉を残して1940年に亡くなっているが、いまの日本は成人になる意味が見えない時代になっているようだ。
「無痛の時代」という人もいる。在日青年の中でも「生きている意味がわからない」「自分を愛せない」などの悩みを訴える声が出ている。
在日2世の作家、梁石日氏は、「この豊かな日本社会にいると、生きることへの切実さ、エネルギー感覚がなくなる。危険な時代だ。若者の身体感覚、身体の復権が切実に求められる時代だ。自分の小説の読者も、身体の復権を求めて読む人が多い」と警鐘を鳴らす。「自分を愛すること」「自分が何者かを知ること」の大切さは、日本の大江健三郎氏や英国の作家エイダン・チェンバース氏などがこの間発表した小説などでも強調されている。
在日2世のエッセイスト朴慶南さんも、新刊『私以上でもなく、私以下でもない私』(岩波書店)の中で、生きること、信じることの必要性を若者に語りかけ、「若い力が社会の閉鎖性、排他性を解き放していく」と期待を寄せている。
◆20年前の社会は
在日の日本定住化が一層進んだ時代であった。その象徴的な運動として指紋押捺拒否運動が在日と日本人の市民運動として展開され、在日韓国民団中央本部も外国人登録法の指紋押捺・登録証常時携帯制度の廃止を求める100万人署名運動などを展開した。在日高齢者の福祉問題、地方公務員採用の国籍条項撤廃などを求める声も盛り上がっていった。
また民団、総連という組織から離れたところで生活する在日が増えはじめ、日本国籍の取得、日本人との結婚が増えていった年でもある。また日本政府は国籍法を改正し、父系主義から父母両系主義への変更を決定、85年1月1日から施行されることになった。NHKは84年4月からハングル講座「アンニョンハシムニカ」の放送を始め、韓国語講座が日本に根付くきっかけを作った。