女性の社会進出が目立つ時代、在日の女性たちも様々な分野で活動し、社会的評価を得ている。在日外国人の母子保健と人権について提言する東京女子医科大学大学院助教授の李節子さん、在日のアイデンティティーを問い続ける作家の金真須美さん、そして韓国の国楽を日本で紹介し続ける金福実さんの3人を紹介する。
◆外国人医療に貢献・・・李 節子さん◆
東京女子医科大学大学院看護学研究科助教授の李節子さん(47)は、在日外国人の母子保健、人権問題に長年取り組んでいる。
98年に「在日外国人の母子保健 日本に生きる世界の母と子」を執筆・編集して医学書院から出版。外国人の子どもの出産、保育、幼児教育、初等教育に至るまで、具体的にどういう問題があり、どう対処すべきかを解説し、行政や医療現場で広く活用されるようになった。同書では、「親が韓国出身とか、フィリピン出身とか、堂々といえる寛容な社会に日本がなってほしい」との思いで、異文化教育のあり方についても語っている。
一方で、在日韓国人の生活実態についても長年調査を重ね、今年5月に発行された国際保健医療学(日本国際保健医療学会編、杏林書院発行)でも、「在日外国人の保健医療」と題した項目を担当した。
日本における在日外国人人口の推移、死亡動向と健康課題などについて報告したうえで、児童福祉法や母子保健法に関連した母子保健制度の適用には人道的立場から「外国人」「日本人」の区別はなく、「医療保健従事者は多文化共生社会への認識を持って、医療活動にあたることが重要」と提言している。
李さんはほかにも「「小児看護叢書1 健康な子どもの看護」で「在日外国人の子どもの健康」について文章を寄せるなど、医療学会で積極的に発言。子ども医療の従事者が必携する「育児の事典」でも、その新版で「多民族・多文化共生社会と母子保健・育児ニーズ」と題した項目を担当している。同事典で外国人の母子保健についての項目が入ったのは初めてのことだ。
2002年4月に施行されたDV(ドメスティック・バイオレンス)防止法でも、条文の中に「この法律は、国籍や在留資格を問わず、日本にいるすべての外国人にも適用されます」との項目を入れるべく尽力した。
李さんは、「医療に国境はありません。医療人として、本来業務と倫理的責任を忘れず、世のため、人のためになる仕事をしていければと思います」話す。
◆在日の自我問う・・・金 真須美さん◆
「わたしは何者か」との問いかけは、多くの在日青年がたどってきた道である。在日とは何か、文学を通して検証し続けてきた在日3世の作家、金真須美さんが、新刊本「羅聖(ナソン)の空で」(草風館)を出した。表題作の「羅聖の空」と、「燃える草家」の2作品を収録したものである。金さんは京都生まれ。第12回大阪女性文芸賞、第32回文芸賞などの受賞歴があり、『メソッド』(河出書房)をこれまでに出している。
今回の「羅聖の空」は、多国籍都市ロサンゼルスに住み、今は日本国籍を取得している在日女性のアイデンティティーをテーマにした作品。ある土地に長く住む中で「在日」の意味は消えるのかどうかを問いかけている。
「燃える草家」は90年代前半、ロサンゼルスに住む黒人と韓国人との間で起きたいわゆるロス暴動をテーマに、複雑な多民族社会、多言語社会の様相を描いている。言語、国籍について考えさせる。
自己のアイデンティティーを問い続ける在日女性作家として、息長い活躍が期待される。
◆伝統芸能伝える・・・金 福実さん◆
東京・荒川で金福実国楽研究所・韓国パンソリ保存研究会関東支部を運営する金福実さんは、ソウル生まれの在日1世。
20年前に渡日後、韓国の伝統音楽を在日社会で伝えると同時に、研究所の生徒とともに日本の小学校で演奏会を行うなど、荒川を拠点に韓日文化交流に貢献してきた。最近も細田学園で公演を行っている。
そしてこのほどカヤグムの散調(申寛流)7曲とパンソリ4曲の入ったCD「金福実伽倻琴世界」を発売した。「後輩たちに伝統芸能の魅力を伝えておきたい」との願いで作ったもので、特にパンソリは「春香伝」からサラン歌、離別歌、そして獄中歌と名曲を収録。
「これまでの活動の集大成として作成した。ぜひ多くの人に聴いてもらいたい。伝統芸能の普及に役立てばうれしい」と金さんは語る。CDは3000円。電話03・3806・4852(金福実国楽研究所)。