日本の文部科学省が5日、来春から使用される中学校用教科書の検定結果を発表、「新しい歴史教科書をつくる会」の教科書が一部修正して合格した。他社の教科書も「強行連行」などの記述が減った。これに対し韓国政府は5日、「深刻な憂慮」を表明した。在日社会からも強い批判の声が起きている。
今回の教科書検定では独島(日本名・竹島)の領有権問題について、扶桑社版の公民教科書は当初「韓国とわが国で領有権をめぐって対立している竹島」を、文部科学省の指導を受けて「わが国固有の領土であるが、(略)韓国が不法占拠している竹島」と表記した。
また日本の全中学生の65%が使用する東京書籍、日本書籍新社、大阪書籍の3社の教科書にも独島が日本領であると記述された。残る4社も訂正を申請して掲載を検討している。文部科学省の意向に沿った改訂をしないと、採択ではねられる可能性があるからだ。
文部科学省が日本領土であることを明確にするよう指示を出したことに、韓国政府は強い危機感を抱いている。独島問題について「深刻な憂慮を表明する」と発表し、歴史歪曲問題についても「過去の過ちを合理化や美化する内容が含まれているのは遺憾で嘆かわしい」として是正を求めた。
韓国政府は、検定を受けた9出版社12教科書について、現行教科書(2001年)と比較し、扶桑社「公民」の「(竹島は)韓国が不法占拠している」表現したことなど、11カ所が改悪されたとし、改善・一部改善は「新羅と百済の日本朝貢」など8カ所、現行水準は26カ所と分析した。
韓国政府は6日、高野紀元・駐韓日本大使を外交通商部庁舎に呼び、文部科学省が検定申請本よりも”改悪”された内容を指示したことについて説明を求めた。
「慰安婦」問題については、95年度検定で6社、前回の2000年度検定で1社が掲載していたが、今回は申請した8社すべての歴史教科書から「慰安婦」の用語が消えた。また「強制連行」の記述も95年にはすべての教科書で記述されていたのが、今回は2社になるなど、植民地支配についての記述が減っているのも特徴的だ。
現場の教員の声でなく、教育委員会による採択が推し進められていることから、採択を通過するために自主規制する動きがこの間、目立っており、それが加害記述の減少につながったと見られる。
また7日にはパキスタンのイスラマバードで藩基文外交通商部長官と日本の町村外相の会談が行われ、藩長官が抗議の意を示した。
「子どもと教科書全国ネット21」など15の市民団体は5日、共同記者会見を行い、「つくる会教科書」の問題点、検定合格させた文部科学省の責任などについて述べ、「同教科書が今後、学校現場に持ち込まれないよう国民にアピールする」と訴えた。
子どもと教科書全国ネット21では、歴史認識の共有を目指して韓日中の学者による共同の歴史本「未来をひらく歴史 東アジア3国の近現代史」を編集中で、5月中旬にも3カ国語で発行する。
◇李進熙・和光大学名誉教授の話◇
「日本の100年に渡るアジアへの侵略を覆い隠そうとしている。文部科学省の検定は検閲でないか。そして、つくる会の教科書に他社の教科書が追随する状況が作られいることに、一人の歴史学者として恐怖感を覚える。年間200万人が韓国を訪れ、中国や東南アジアにも大勢が旅行する時代に、歴史を知らない日本の若者を作り出して、どうしてアジアと交流が出来るのか。真実の歴史を伝えることが大切だ」
◇ 姜在彦・花園大学文学部客員教授の話◇
「4年前に比べて強制連行や慰安婦の記述が減るなど内容が悪化している。近現代史については、近隣諸国に配慮する近隣諸国条項があったが、それがまったく無視されている。このままで行くと、次の教科書検定で植民地問題の記述はさらに減っていくだろう。日本の右傾化がこのまま進むかどうか、歴史的転換点を迎えている」