今回の最高裁判決では、「地方公務員法は地方公務員への外国人の任用を禁じていない」としたものの、任用制度については自治体の裁量を認め、都が「(管理職試験で)日本国籍を資格要件とするのは合理的な理由による区別で合憲」とした。しかし、15人の裁判官のうち2人が「受験拒否は違憲」とする反対意見を述べた。
鄭さんが裁判を起こしてから10年余り。国籍条項の壁はあまりにも厚かった。鄭さんの管理職試験受験を拒否する根拠となっているのは、1953年に内閣法制局が出した「公権力の行使と公の意思形成への参画に携わる公務員には日本国籍が必要」との見解、いわゆる「当然の法理」である。
しかし、在日韓国・朝鮮人を中心に民族差別撤廃を求める運動が70年代から活発化、77年には司法修習生で外国籍の採用が決定、84年には郵便外務職で国籍条項が撤廃されていた。86年には東京都が保健師の国籍条項を撤廃した。それを受けて鄭さんは採用試験を受け、都の外国人保健師第1号として採用されていた。
その後、管理職試験の受験を国籍を理由に拒否されると、鄭さんは悩みに悩んだ末に「自分一人の問題ではない。外国人の人権のため」と提訴を決意、94年に都を訴えていた。
96年5月の東京地裁判決では、「「憲法は、外国人が国の統治にかかわる公務員に就任することを保障しておらず、制限は適法」として敗訴した。
しかし、地裁判決を前後して川崎市が政令指定都市で初めて国籍条項を撤廃。翌97年4月には高知県が都道府県で初めて国籍条項を撤廃し、同年11月の東京高裁判決では、「外国人の任用が許される管理職と許されない管理職とを区別して考える必要があり、都の対応は一律に道を閉ざすもので違憲」として、都に40万円の支払いを命ずる逆転勝訴を言い渡した。
その後も国籍条項撤廃の動きは続き、現在13の政令指定都市と11府県が、採用時の国籍条項を撤廃している。採用後の配属や昇進については、川崎市は「川崎方式」と呼ばれる内部基準を設けて、一部管理職への登用を可能とした。在日韓国人が多く居住する大阪府は、99年度に行政職の国籍条項を撤廃したが、「公権力の行使にかかわる部署への配置」を禁止している。大阪市も同様の基準を取り入れている。
今回の裁判は、「当然の法理」のあいまいさを問い、定住外国人の人権、とりわけ歴史的経緯のある在日韓国・朝鮮人の人権について、最高裁がどのような憲法判断を示すか注目されたが、最高裁は「公権力行使等地方公務員」という言葉を判決に盛り込んで、「外国人がこうした職務に就くことは法体系上想定されていない」とした。
裁判後の記者会見、報告集会で弁護団は、「アジアの人権先進国となる判決を期待したが、人権についての憲法判断を回避した。在日と行政で決めろということで、司法の役割を果たしていない」「最高裁は人権の砦だと思っていたが裏切られた。戦後60年も経つのにこの国は人権後進国のままだ」と強い怒りを示した。
15人のうち2人の裁判官が、「受験拒否こそ違憲」と反対意見を述べたが、この反対意見にこそ、最高裁らしい傾聴すべき内容が含まれている。