北朝鮮が9日に核実験を行ったと発表したことは、在日社会にも大きな衝撃を与えた。在日はどう見たか、各界の声を紹介する。
在日韓国民団中央本部(鄭進団長)は9日、「北韓(北朝鮮)の核実験を厳重に抗議する」と題した団長名の声明を発表した。声明では「北韓当局の暴走は在日同胞全体の日常生活すら脅かすものであり、生活者団体として同胞の生命と財産を守る民団の立場からも、断じて許せるものではない」と主張している。
また、在日有志で詩をつくっている「時調の会」も、「北朝鮮の核放棄を求める声明」を発表、「無用の核兵器を廃棄し、軍事優先の政治を解消」を求めた。
一方、全国の朝鮮学校には無言電話や嫌がらせ電話などがあり、学校側では生徒の集団下校を始めた。年末まで続ける。
◆対話と圧力構築を 李鍾元さん(立教大学教授)
北東アジアが大きな岐路に立たされようとしている。核のドミノが北東アジアに訪れる危険性が生じ、局地的な軍事衝突の恐れも出てきた。
中長期的に緊迫した状況が続くことになるだろう。
韓国では太陽(融和)政策の失敗がマスコミで取り上げられているが、一方の米国ではブッシュ政権の強硬政策が失敗したと報じている。韓中の対話政策、米日の圧力、それがこの間、別々に展開したのが失敗の大きな要因だ。
遅きに失した感はあるが、対話と圧力を有機的に連動させ、北に対処する中でしか、この問題は解決しない。
在日社会は、朝鮮半島の情勢に影響される不安定な状況が続いてきた。その不幸な歴史が、また繰り返されるのは残念なことだ。
◆軍事衝突避けよ 梁石日さん(作家)
まさか本当にやるとは思わなかった。予断を許さない状況になった。
もし米国によるピンポイント爆撃が行われたら、民間人の犠牲者が多数出るし、軍事境界線で衝突が起こる可能性もある。そうしたら全面戦争になってしまう。そういう事態は何としても避けなければならない。
国連決議がどうなるかわからないが、中国の動静に注目したい。盧武鉉政権の太陽政策も破たんしたといえる。韓国の政局も不安定になるだろう。
在日社会についていえば、過去のチマチョゴリ事件のような朝鮮学校生への嫌がらせが懸念されるし、在日のイメージ全体も悪くなる。本当に残念なことだ。
◆排外主義を危ぐ ぺ・ジュンドさん(神奈川・川崎市ふれあい館館長)
日本社会のナショナリズムが強まっていることが、この間懸念されているが、マスコミ報道などで「朝鮮人は恐い」などと煽られると、そのナショナリズムに火が付く可能性もある。マスコミ関係者は、その点を考えてほしいものだ。
日本の排外主義が高まり、在日の子ども達に対するいじめが広がらないか懸念される。日本の子ども達に排外主義が植え付けられる可能性も懸念される。
日本社会が在日コリアンをどう見てきたか、それが今後どう変化するか、注視する必要がある。
◆学校通う娘心配 申順子さん(主婦)
中学生の娘を朝鮮学校に通わせているが、10日から集団下校になった。先生から特に説明はなかったが、みんな事情はわかっている。
娘のことは心配だし、社会的弱者に嫌がらせが集中するのは本当に腹立たしい。日本社会の陰湿な部分には腹が立つが、良心的な人が圧倒的なので、それに期待したい。
在日は本当に中途半端な存在だ。朝鮮半島で事件があったからといって、私たちが被害を受けるのはおかしい。
北朝鮮は米国とまだ休戦中で、いわば戦時体制下にある。日本で受け止める感覚とはまったく違うのだろうが、在日のことも少しは考えてほしかった。外交的解決が行われることを望む。
◆6者協議復帰を 張界満さん(弁護士)
国際社会の批判を浴びる中で核実験を強行したのは、本当に残念だ。北朝鮮の独自路線には、強い不安を感じる。6者協議に復帰して、話し合いで解決してもらいたい。
何も関係がない朝鮮学校生へのいじめが心配で、すでにこの問題に関わっている弁護士仲間が、嫌がらせなどが起きないよう声明を出している。先生方も対応に追われていると聞いているが、事件が起きないことを願う。
◆北民衆の命守れ 姜在彦さん(歴史学者)
韓国の金大中、盧武鉉政権は、北朝鮮の崩壊を食い止め、ソフトランディングを望んできた。そのために融和政策を行い、北への支援を続けてきたが、北は今回、それを拒否した形になった。
体制維持のために何としても核兵器を持とうと考えているが、それは逆に体制崩壊の道を歩むものだ。民衆の生命・生活を保証するのが政権の仕事なのに、逆方向に進んでいる。先軍政治にブレーキがかからないことを憂う。