在日コリアン2世の映像作家、梁英姫さん(41)が、制作したドキュメンタリー映画「ディア・ピョンヤン」が、26日から東京・渋谷のシネ・ラ・セットほかで公開される。朝鮮総連の熱心な活動家の父、帰還事業で北朝鮮に帰国した兄たちの姿などを通して、家族の問題を考えた作品だ。梁英姫さんに話を聞いた。
――家族、特に父をテーマにした意図は。
世界中で多くの映像作家が、自分の家族を追ったドキュメンタリーを制作している。それらの作品を見て、私もチャレンジしたいと考えた。
家族とは普遍的で、とても面白いテーマだ。北朝鮮に兄たちがいる特殊な在日コリアンの家族の話ではなく、普遍的な家族の物語として見てほしい。
父を主役にしたのは、私の疑問をぶつける相手をピョンヤンでなく父にすることで、ワンクッション置けるかなという部分があった。
――脳梗塞で倒れてまともに話ができない父の姿も撮影していますね。
病床の父の姿もしっかり収めなければならないと思った。
あんな姿を撮らなくてもよかったのではという人もいたけれど、私にとってはステテコ姿の父も、北朝鮮からもらった勲章を付けたスーツ姿の父も、病床の父も全て同じ存在だ。だから、特に撮りにくいということはなかったが、見直してみるとやはり声がうわずっていた。
昨年の夏に編集作業を行ったが、父の元気な時の映像を見ていると、その落差に内心震えながら作業した。意識もうろうとしているときもあるが、まだ生きてくれていることに感謝している。
私に「早く嫁に行け」と説教したり、とても愛くるしい父親の側面と、ひとつの絶対的なものをひたむきに信じている側面の両方を描き、人間は多面的な存在ということを見せたかった。
――北朝鮮での兄たちの生活振りは興味深い。
北朝鮮でも普通に人々が生活していることを知らせたかった。北朝鮮についてはネガティブな映像ばかりが放送されているが、日々の営みは日本にいる私たちと同じことを知ってほしい。
――映画で強調したかったことは。
私は幼い時から民族教育を受けて育った。両親は朝鮮総連の熱心な活動家で、兄たち3人を帰国事業で北朝鮮に帰国させた。帰国といっても見たこともない祖国だ。その兄たちは北で家族を持ったが、親がずっと続けた仕送りで生きてきたのが現状だ。
そういう状況を作り出した時代とは何か。そして私自身の思いを表現したかった。私が自らナレーションを務めているが、それは私が言いたかったことを伝えるためだ。
私は周囲の人々から生き方を強制された部分と、それに抵抗して生きてきた部分がある。その葛藤、組織というシステムの中で人間がどう生きようとしてきたかも見てもらいたい。
■ディア・ピョンヤン■
朝鮮総連の熱烈な活動家である両親を持つ、映像作家の梁英姫さんが、大阪在住の両親の生活、70年代初頭に帰国事業で北朝鮮に渡った3人の兄たちとの再会などを追ったドキュメンタリー。昨年完成し、欧州や米国で公開され、ベルリン国際映画祭で最優秀アジア映画賞を受賞した。