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2006/08/04

<在日社会>夏休みの読書、韓国・在日を深く知ろう

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                  「パラムソリ」

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                  「韓のくに、風と人の記録」

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                  「祈りの美術」

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                  「55センチの愛」

 夏休みは読書の季節。在日女性のエッセイ集や、韓国を記録し続けた日本人カメラマンの写真集などに触れ、韓国・在日理解に役立ててほしい。

 「パラムソリ 韓風にのって」(成美子著、晩馨社、1200円)の「パラムソリ」はもちろん「風の音」である。「韓風にのって」という副題だが、今風の話題としてばかりでなく、熟年に近づいた一人の在日女性の自伝としても読める。

 題材も、在日の問題はもちろん、韓流ブーム、食材、子育て、子育て、商談の裏話から南北関係、サハリン同胞の問題と豊富で、その分析もなるほどと納得させるものがある。視野が多角的で、生活感のあるところがいい。

 第一章は、「冬ソナ」から「チャングム」へと、韓流の舞台裏にまつわるエッセイ。第二章は食材に関する逸話が中心だが、「プッコチュの復讐」は愉快で、落ちもきいている。書評としては扱いにくい内容なので、読んでみてのお楽しみ。第四章では「強靭なる中国」が、第五章では「ソウル女性節」が楽しい。

 第三章の「金オモニ」は、サハリン同胞の悲劇がテーマになっているが、樺太版おしん物語。作者が出会った「金オモニ」は、1937年に朝鮮からサハリン炭坑に送られた父を追い、母とともに2歳で当地に渡るが、戦局の悪化で父だけが九州の炭坑に移され、最初の一家離散。戦後の63年、たった一人の妹が医者をめざして北朝鮮に帰国し、2度目の一家離散。やがて日本語通訳として身を立てはじめた金オモニは、90年のソ連崩壊の荒波をかいくぐって実業家として成功する。そんな金オモニだが、「父親が九州に送られるまでの7年間が、金オモニにとって唯一家族団らんが持てた…貧しいながらも幸福な日々だった」という。ひたむきに生きて、サハリンに根を下ろした一人の女性の物語である。(評者・金一男=韓国現代史研究者)

 「韓くに、風と人の記録」(藤本巧編・写真、フィルムアート社、2500円)は、写真家の藤本巧さん(56)が1967年から37年間、韓国のたたずまいと人びとを撮り続けてきた写真の集大成。

 ソウル、慶尚南道・青鶴洞、済州島など韓国各地の風景に加え、在日が密集する大阪・生野や対馬などの貴重な写真も掲載。金達寿、金石範、大島渚、中上健次など韓日の識者の「時代の証言」も重ねて、「韓くに(からくに)」を浮かび上がらせる。

 「祈りの美術-日本と韓国・二つの祖国を生きる」(河正雄著、イズミヤ出版、2500円)は、在日2世の著者が日本に生まれ、如何なる想いで在日を生きたか。美術を通して両国の海峡に、相互理解と交流の橋を築こうとした河さんの苦闘の記録。

 陳昌鉉、呉日など各界で活動する在日文化人へのやさしく深いまなざし、韓日文化交流への提言など、示唆に富む内容となっている。

 「55㌢の愛 わたしは夢をかなえた『親指姫』」(早川書房、ユン・ソナ著、1500円)は、生まれつき骨形成不全症という難病に侵され、骨がもろく、60回もの骨折を経験し、成人したいまでも身長わずか120㌢しかない26歳の女性が綴った自伝的エッセー。表題の「55㌢の愛」は、夫との伸長差を表している。

 「鳥かごに閉じこめられた鳥は、死んでいるも同然だ。韓国の地で障害をもった人間は、その鳥のように死んだも同然だ」。こう彼女は記す。

 韓国ではいまだ身障者に対する偏見が根強く、福祉も遅れている。そんな社会で、障害と戦いながら人生を切り開き、最愛の夫と巡り会い、韓国で人気ラジオパーソナリティーとして自立して生きる彼女の姿は、多くの障害者に勇気を与えるに違いない。