韓国で李明博氏が新大統領に決まった。新大統領を見つめる在日の声を紹介する。
◆実務能力に注目 姜在彦さん(歴史家)、写真・上から1番目
これまでの大統領選挙では民主政権か軍事政権かという風に、イデオロギー対立が争点になったが、今回の選挙は実務能力が争点になった。それが李明博氏を大統領に押し上げたと思う。
実務型大統領が誕生したのは、それだけ韓国政治が安定してきた証拠といえる。盧武鉉大統領は金大中政権の太陽政策を継承し、南北の緊張緩和に大きな役割を果たした。
しかし、国内経済の建て直しなど実務能力には問題があった。それをカバーする点で実務型大統領の登場は意味があるのではないか。
また南北関係も現在の政策を基本的に維持しつつ、修正をするということなので大丈夫だろう。大阪生まれということだから、在日への理解もあるのではないか。ともかく、一日も早く経済を立て直してほしい。
◆対北政策見直しを 呉忠根さん(群馬県立女子大講師)、写真・上から2番目
新政権の対北政策だが、大枠としては太陽政策を維持しつつも、核放棄を前提に対北支援を行うなどの手直しを行うとしているが、ぜひ実現してほしい。これまでは一方的な支援が目立ち、6者協議でも韓国だけフライング気味の場面が見られた。これは逆に核問題の解決を遅らせる恐れがあり、他国と歩調を合わせることが、解決に結びつく。離散家族の面会所を金剛山に設置するのか再考すべきだ。ソウルと平壌を離散家族が相互訪問することが、相互理解につながるだろう。
頂上会談も相互訪問が原則であり、一方的に平壌を訪問するだけの関係は見直すべきだ。さらに、「拉北」韓国人の送還問題も提起してほしい。
これらによって南北関係が一時的に停滞することがあっても、長期的な視点で見れば、原則を守ることこそが統一に寄与する道だと思う。
◆韓国政治は新時代に 李鍾元さん(立教大学副総長)、写真・上から3番目
韓国社会が政治の季節から経済に移行する、脱理念を迎えた大きな変わり目の選挙だ。軍政から民主化を経て、人々の関心は自分の生活、経済になった。それに李明博候補は上手く対応したが、他の候補は従来型の発言を繰り返し、人心をつかむことができなかった。都市部の比較的若い層が李候補を支持したが、保守陣営も世代交代し新しい段階に入ったといえる。
李明博大統領になったらすぐに経済が良くなるのではと、企業も労働者も支持した。しかし、経済回復はそう簡単ではない。市場原理を導入し、経済全体の底上げによる経済再生を目指しているが、格差回復、不動産価格の沈静化などは時間がかかるだろう。
来年総選挙があるので、生活対策をすぐに出すと思うが、その政策に注目したい。
これまでの保守、民主ではなく、先進国型の経済・福祉・教育を重視した国家建設が、今後の韓国に求められている。
◆経済手腕が楽しみ 姜仁秀さん(広島・八千代病院理事長)、写真・下から2番目
経済は生活で最も大切な部分であり、経済が何とかならないと生きることができない。李候補の勝利は、イデオロギーや思想はもういいから、経済を何とかしてほしいという国民の声が大きい証だ。
私も経済人だが、実際に会社を経営しリスクを経験してみないと、経済はわからない。
いかに経費を少なく、スピード感を持って運営するか、空理空論でなく現実的に、本能的に運営することは長い経験がものをいう。そういう意味で国民は、倫理性よりも経済手腕に期待したのだろう。
現代建設時代の李明博氏が登場するテレビドラマ「英雄時代」を見たが、韓国経済発展の基礎を築いた企業人の物語は、とても感動的で参考になった。
在日にとっては、韓国が経済再生を果たすことで、祖国に誇りを持って生きることができる。そういう意味で楽しみだ。
◆弱者への配慮注視 朴一さん(大阪市立大学教授)、写真・下から1番目
10年ぶりに保守政権が誕生したが、対北政策は基本的に太陽政策を継続するので、北との関係に大きな変化はないだろう。対日関係も心配はないと思う。
地域対立の激しい韓国で、日本生まれの大統領が誕生したことにも注目したい。
問題なのは経済だ。”経済大統領”の呼び名通り、経済回復を期待されて大統領に指名されたが、新大統領は市場経済主義者であり、全般的に大企業優位、成長重視の政策を主張している。財閥オーナーの経歴からいっても、弱者に対するセーフティネットがどこまで出来るのか疑問だ。
今後、韓国経済全体が上向きになっても、弱者への配分がどこまでなされるだろうか。国民が常に監視する必要がある。期待と不安が半々に、政策を注視したい。