世代交代が加速し、個人、組織とも大きく変化しつつある在日社会。そんな中、在日の新たな座標軸をどこに見出せばよいのだろうか。今号から「在日の新たな座標軸を求めて」と題して、各界の在日インタビューを掲載する。第1回目は、大阪に新しく出来るコリア国際学園の常務理事を務める文弘宣さんに、同校の目指すものなど聞いた。
これまでの民族学校の枠を超えた、国際化社会に役立つ人材を育てる新しい国際学校、「境界をまたぐ越境人の育成」がコリア国際学園(KIS)の理念だ。在日の詩人、金時鐘さんが学園長、姜尚中・東京大学教授が理事長を務めるなど、在日の識者・文化人が学校運営に多数加わっている。そのKISの運営面を担当するのが文弘宣さんで、資金援助を行う在日企業人をまとめる役割も担っている。
「KISは21世紀型の人材育成を目指している。経済人の立場から言うと、世界に通じる経済人を育成することになるだろうか。ソフトバンクの孫正義さんのような企業家や文化人、知識人など世界で活躍する人材を育てたい。それが一番の願いだ。コリア語、英語、数学には特に力を入れる。学校は明るく楽しく、授業は厳しくを基本にしたい。遠方からの入園希望者のために30~40人前後の寮も用意したい。既存の民族学校とは対抗するわけではない。いい意味で棲み分けができればと思っている。将来的には民族学校の統合があるかもしれないが、どんな形になるにしても、在日の優秀な人材輩出に貢献したいと願っている」
学校設立の話が具体化したのは2004年。文さんら在日の識者、経済人有志の集まりで、3、4世向けの新しい学校教育の必要性が論議されたのがきっかけだ。
「在日の新しい未来に向けどんなチャレンジが必要かという中で、学校設立の話になり、次第に賛同者が増えていった。学校運営には莫大な経費がかかると危惧する声もあったが、企業運営のノウハウを取り入れれば大丈夫と確信していたので、自ら運営を受け持つことにした。賛同してくれる在日企業1社あたり、設立資金として2000万円、運営費として年間100~200万円のカンパを目標にしている。そういう企業を30社ほど集めれば大丈夫だ。いま14社が集まっている。学生数は最終的には420人を目標にしているが、経費が年間1億8000万円かかるとして、3年間は赤字でも4年目に黒字を見込んでいる」
「一条校になれば日本政府の補助が出るが、カリキュラムが制限を受ける。『韓国政府に支援を頼んでは』との助言もあったが、それも自主性を失う可能性がある。まず在日の力だけで運営をしたいと考えている」
文さんの父は朝鮮総連系の大物商工人だった文東建さん。日朝合作の学術映画『騎馬民族国家』の製作に貢献したことでも知られているが、87年に亡くなった。文さんは会社経営を引き継ぐ一方、総連系の商工会に所属し積極的に活動していたが、次第に意見の違いが鮮明化していく。
「中国は改革・開放政策を成功させたが、その初期段階は華僑が95%投資していた。北朝鮮でも80年代半ばに経済改革の動きがあり、合弁法を作り、在日経済人の投資を受け入れた。私は他の在日商工人と一緒に合弁法設立に協力し、87年には北朝鮮に約2万6000平方㍍の生糸工場を建設した。生糸は韓国経由で日本に輸出され、利益をあげたが、工場の運営などで北に多くの問題が生じ、94年に放棄することになってしまった。在日商工人を華僑のように迎え入れ、改革を本格化していれば、今ごろは経済が順調だったかもしれないのに残念だ」
「また兵庫朝鮮商工会の副会長をしていたが、ここでも納得できないことが多く、2003年に脱会し、新たに設立された中間法人兵庫商工協同組合(税務相談などを行う民族系商工会、現在は80社ほど加盟している)に加盟した。情報公開をきちんと行わないと、いまの在日商工人は納得しない。組織の活動家はそれを肝に銘じてほしい」
学校設立に奔走する一方で、神戸の女子サッカーチーム「アイナック レオネッサ」の会長も務めている。同チームは2004年関西1部リーグで優勝。2006年からLリーグ1部に所属した。今期は現在まで5位。8月下旬には上海で韓国、中国の女子チームとの合同キャンプも行った。
「チームを持ったのは2001年。日本社会への恩返しのため、そしてスポーツ文化への貢献を考えて活動してきた。NPO法人アイナックを立ち上げて、関西地域の企業100社の共同運営にしたことで、各企業のスポーツへの関心も高まってきた。今後は東アジアのスポーツ交流にも尽力したい。上海での合同キャンプはその一環だ」
在日の若者にどう生きてほしいか、最後に伺った。
「どこの国に住み、どんな国籍を取っても、常にコリアンであることを自覚してほしい。21世紀に入り、在日社会も変化している中、在日の世界にこもらず、活動領域を広めて、大きな夢を持ってもらいたい。民族的アイデンティティーを保ちながら、世界で活躍する人材になる。これが私、そしてKISの願いだ」