国際医療福祉大学(栃木県大田原市)に勤務する金升子さん(キム・スンジャ/保健医療学部、看護学科准教授)に在日コリアンの福祉のためのネットワークについて意見を聞いた。
国際医療福祉大学は医療福祉分野で、二学部、8学科ある。金さんは看護学科で、クリティカルケア領域(重症集中治療)やコミュニケーションなどについて講義している。
生命の危機的な患者、咽頭癌などの病気で発声ができない、病気で難聴になった人等、障害を抱える患者とどのように意志の疎通を図りながら、看護ケアや治療をするか等を学生に、講義を中心に演習、実習も担当している。
「世界の医療は専門化、細分化がより進んでいるが、高齢者問題について言えば遅れがある。医療の進歩で栄養状態が改善され長寿が可能になり肉体が衰え、認知症になっても長生きだけは出来るようになった。しかし、それに行政も医療も対応が追いついていない。世界各国で高齢者問題の対応に苦慮しているのが現状だ」
高校3年生のときに母が癌で入院し死別、その時の経験から医療と看護の道を志した。
「私が学生時代、日本の福祉政策はもちろん、福祉に対する社会全体の関心も少なかった。少子高齢化が進み、いまは逆に福祉問題で発言しないと政治家も票を取れない時代になった。それだけ社会の関心が高まっているのは良いが、良い対策を打ち出し実現するか、が課題だ」
大学には在日の学生や韓国からの留学生もいる。韓国の医療福祉関係者(現代ASAN病院・看護婦・員)にも友人がおり、交流や日本国内の医療施設見学の支援を金さん自身がすることもある。
「韓国は日本より早く、看護婦の教育を大学で行い、米国で活躍している看護婦も多い。平均寿命が延びて家族が、介護問題を抱えているのは日韓も、在米韓国人も同じような状況だ。食事も高カロリーの肉食を控え、韓国の伝統的な野菜中心の食事を見直す必要があると思う。韓日ともに高齢者向けの適切な施設も足りない様に感じる。早急に韓日の高齢者対策が求められる」
金さんは、在日コリアンの医療福祉関係者とともに、在日高齢者のためのネットワークが出来たら良い、と希望し関心を寄せている。
「専門チームを作って法人化し、民団と総連の垣根を取り外し共同で運営するとか、ビルを購入してそこを拠点に福祉事業を行うとか、方法はいくつもあると思う。在日向け老人ホームを建設する場合でも、具体的な運営方法や、どう地域に密着していくのか?チームで検討すべきではなかろうか。偏狭な思想闘争は止めて民団、総連関係なく在日の高齢者対策を早急に進めてほしい。専門家の協力を呼びかけていくことも重要だし、可能なら私も一助を果たしたい」
キム・スンジャ 1945年兵庫県生まれ。仏教大学社会学部社会福祉学科卒業。自治医科大学付属病院などを経て、国際医療福祉大学保健学部大学院修了。2002年より国際医療福祉大学、看護学科准教授。