韓国政府補助金の使途をめぐる虚偽報告事件は、韓国民団中央本部(鄭進団長)に対して内外から不信の眼を向けさせた。2月23日に開かれた第61回定期中央委員会では、責任を取る形で金宰淑団長(当時)と会計担当の具文浩副団長(同)の処分が発表されたが、「再発防止のため虚偽報告問題の真相を明らかにすべきだ」「透明性ある改革案を示すべきだ」との声が同胞社会から起きている。民団には過去、5億円の不正手形事件もあり、疑惑に蓋をすることは許されない状況にある。今回の事態の真相をきちんと解明し、公表する責任がありそうだ。
「金宰淑氏には監察委員会の処分で一番軽い警告処分(注意のみ)、会計担当の具文浩氏は停権2年(役職停止)だが、どういう基準でこの処分が下ったのか、詳細な説明をしてもらいたい」
ある民団地方幹部の声だ。昨年8月に行われた2003年度から3年間の政府補助金使用に対する韓国政府の監査の結果、明らかになった放漫運用は①2079万円の未執行金虚偽報告②4172万円の会計処理の不透明性③オリニジャンボリーの会計処理不透明性で、早急な改善を求められた。
これに対して民団中央は2079万円を昨年9月末に返済するとともに、公認会計士による外部監査結果と関係者の処分を、2月23日の民団中央委員会で発表した。
当日配られた公認会計士の報告書要約文によると、①補助金執行の虚偽報告については虚偽の事実があった②特別事業資金4172万円の会計処理の不透明性については会計上の誤りがあった③オリニジャンボリーの会計処理問題については、事業費の計上方法に誤りがあるが、決算書が完全でないため、今後さらに確認の必要がある――と指摘された。
民団中央は、「虚偽報告はあった。また会計処理に誤りはあったが(横領などの)不正はなかった」としている。しかし、団員の間からは「横領などの不正はなかったというが、それなら不透明な会計を行う必要がどこにあったのか」「会議で報告せず2079万円をすぐに返却した理由は」などの声があがっている。さらに、「具文浩氏は、いまも朝鮮奨学会の民団側代表理事を務めているが、停権処分となった人が民団の代表理事でいいのか。辞任すべきではないのか、いや罷免すべきだ」との声も、地方幹部などから出ている。このように民団社会をゆるがす問題として、いまなおくすぶり続けている。
「中央は事態の深刻さがわかっていない。真相が明らかになったといえない状況で処分だけ決定するのは、幕引きを図ろうとする意図ではないか」(中央委員会参加者)との疑念すら出た。
ある在日識者は、「調査書全文を公表してほしい。民団新聞で金員の損失はなかったと言っているが、それならなぜ公正な会計慣行に反した会計処理を行ったのか、金宰淑、具文浩の両氏は公の場で証言する責任があるはず」と語る。
「民団には過去、5億円の不正手形事件という疑惑があったが真相解明は不十分だった。今度も同じ金銭の疑惑が摘発され、内外で民団の信頼は地に落ち、団員の組織離れがさらに進む。民団を不正集団と見る内外の人もいる」と、民団の将来を案じる団員もいた。
「今回の問題をめぐって韓国政府も民団中央に不信の目を向けている。政府補助金の一部を地方本部に直接支給すると発表したのも、民団中央の反省が足りないとみたからではないか」と言う識者もいる。韓国政府の決定に対し、本国への反発を公言する中央幹部もいるが、それに対してある地方幹部は、「まったくの筋違い。30年間も補助金をもらってきたことを感謝すべき」と語った。
ある支団長は、「(支援金の廃止も)時代の変遷とともに当然起こりうることである。これから起こるであろう危機的な財政状況と民団の将来像の展望について、本格的に議論を起こして対策を立てる取り組みが遅れているのではないか」と述べている。
韓国政府補助金をめぐる今回の虚偽報告事件で、民団は大きな岐路に立たされたようだ。鄭進団長は昨秋の就任会見で、「透明性ある組織運営を行い、民団への信頼を回復する」と明言した。その公約通り実行すべきだろう。
本紙には民団員や識者から、「果たして処分の軽重は適切なのか。軽過ぎはしないか。基準を示せ。真相を徹底究明し、もし着服などがあったら即刻弁償させるべきだ。また支援金は本国民の血税だ。処分を受けた者は本国の関係機関に行かせて、公式謝罪させるべきだ。そして再発防止策を明確に打ち出せ。それなしには民団の信頼回復はあり得ない。早急に実践してほしい」という声が寄せられている。
◇離任辞 羅鍾一・駐日本国大韓民国特命全権大使◇
-民団は組織改革の努力を-
私は駐日大使として本国と日本政府を相手に在日同胞社会を代弁し、権益を保護することが重要であると考えました。そのために、同胞社会の代表団体格である民団への配慮、支援にも多くの力を注いできました。
在日同胞社会が形成された歴史的経緯と存在の意味、定住民としての権益伸張の要求などに対しては、多くの説明を必要としないほどに本国の国民はよく知っていると思われます。しかしながら、日本人は、未だこの問題に対する真摯な認識が我々の期待するほどにはないように見えます。地方参政権の問題、無年金高齢者の問題がその代表的事例であります。
このような中、特に深刻であるのは在日同胞社会内部の現状です。皆様がより切実に実感されているように、在日同胞社会では3、4世が本格的な社会活動をするという急速な世代交代が行われています。民族的・文化的な伝統継承の弱化はもちろん、同胞人口が毎年速い速度で減少し、同胞社会の存続自体を憂慮すべき状況に直面しています。
このような周辺環境の変化により、これまで在日同胞の指導的団体と認められてきた民団の存在と活動方式に対して根本的な改革要求が同胞社会内部で絶えず提起されていることは必然的な過程であり、解かなければならない宿題であると考えます。
過去60年間、民団は同胞社会の中で根ざし、存続基盤を拡大させながら活動してきました。そして、1978年から本国政府が民団に大規模な補助金を支援し始めたことで、民団の組織と活動領域は急激に拡大し、多くの成果もありました。しかし、少なくない副作用とこれに対する批判があったことは、よくご存知の事実でございます。
同胞社会の志ある多くの方々が、民団の存在と歴史的意味を肯定的に評価しながらも、21世紀の変化した国内外の情勢と日本の状況に合わせて同胞社会の時代的要求に応じる民団の新たな役割は切実なものであると、持続的に提起されています。
その方々が指摘した問題点は大方、民団組織運営の閉鎖性、本国への依存深化、過度な政治志向、葛藤の調整力の乏しさ、文化的貧困など、民団指導部の立派なリーダーシップさえあれば十分に克服できるものでありました。
私は、このような問題点の克服には在日同胞社会の精神文化の土壌を肥やすことが何よりも重要であると考えています。そのため赴任直後、民団に孝行賞の創設及び同胞社会に孝道精神を伝えることを勧めました。
また、民団が文化部門と社会奉仕部門で素晴らしい業績を発揮した同胞たちを発掘し、同胞社会の民団に対する積極的参与を導き出し、在日韓国人の誇りを高めることが必要であると考えています。そのために、文化賞と社会奉仕賞の創設を推進するよう勧めました。
自分で申し上げるのは恥ずかしいのですが、このような事業の種に活用してもらうよう、私が率先して小さな個人献金を民団に寄託することもありました。
このような事業を通じて、民団が日本社会の差別に対し闘争してきた団体という従来のイメージを払拭し、日本社会の中で新たな価値を創造し伝播させる一次元高い存在に生まれ変わらなければなりません。
また、民団の存在を本国政府から認められることに没頭する姿勢から果敢に脱し、同胞社会の優秀な人材発掘及び彼らに公認(recognition)を付与し、敬われる一次元高い組織に変わらなければならないと考えます。
困難な同胞たちに歩み寄って助けの道を開き、同胞社会の分裂と葛藤を収めて統合・和合を追求する具体的事業を展開する指導的存在にならなければなりません。(抜粋)