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2008/09/19

<在日社会>漫画通して韓日交流を―里中満智子さんに聞く

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    さとなか・まちこ 日本女流漫画家の第一人者。これまでに500タイトル以上の作品を描く。日本漫画家協会事務局長。大阪芸術大学キャラクター造形学科長。

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    里中満智子著「同級生」より

 韓国と日本の漫画家14人による書き下ろし作品集「海峡の向こうに」がこのほど、韓日両国で同時出版された。日本の里中満智子さんが、韓国漫画家協会会長を務める金童話さんに韓日関係テーマの作品集出版を以前から相談し、実現に至った。里中さんに話を聞いた。
 
 韓日共同作品集「海峡の向こうに」は、韓国から金童話、李賢世、黄美那、尹胎鎬、河承男、李榮坤さんの6人が参加。

 日本からは里中満智子、水島新司、バロン吉元、畑中純、倉田よしみ、木村直巳、日野日出志、ちばてつやさんの8人が参加し、韓国では中央ブックス、日本では双葉社から出版されている。

 93年に里中さんがちばてつやさんと訪韓し、韓国の漫画家と知り合ったのが始まりだ。「両国で何かやろう」と意気投合し、96年に「アジアマンガサミット」をスタート、そして今回の共同作品集発行にこぎつけた。

 里中さんの漫画のタイトルは「同級生」。中学生時代の体験をもとに、帰国事業で北朝鮮に旅立った同級生、在日朝鮮人との恋愛に悩む女子学生などの姿を描きながら、民族差別、南北の対立、日本と韓半島との関係などについて問題提起している。

 「私は大阪出身で、どのクラスにも在日の人が数人はいた。友達が在日の男性を好きになったが、『立場が違うし家族が反対するから、日本人と付き合うことはできない』とことわられた話とか、同じ在日の人でも、その家が韓国と北朝鮮のどちらを支持していたかで対立していたこと、また北朝鮮に家族で帰って行った同級生もいたので、それらの体験を一つの漫画にした。通名と本名で悩んでいる同級生もいた。在日の人たちとの交流は、私にとって大きな経験と思い出になっている」

 水島新司さんは、「気まぐれな女神」というタイトルで韓日の野球交流を、バロン吉元さんは「最後の一発サヤカ」というタイトルで、豊臣秀吉の朝鮮侵略時に、秀吉軍の一員でありながら朝鮮民衆の味方となったサヤカの話を描いている。

 また韓国側では、金童話さんが「花のお墓」と題し、従軍慰安婦にさせられた女性の悲劇を、河承男さんが「東洋の平和のために」というタイトルで、伊藤博文を暗殺した安重根義士の生涯を描き、平和の大切さを訴えている。

 里中さんは、「初めての共同作品集とあってか、私を含めて、歴史などをテーマにした重い作品が目立った。将来はもっと自然体で伸び伸びとした作品が出てくると思う。商業的に難しい作品集だが、両国の漫画家とも原稿料なしで協力してくれた。また出版社もこころよく引き受けてくれたことに感謝したい」と話す。

 「政治的には問題があっても、最終的には一人ひとりが交流を重ねることで、よくなっていくと思う。隣国同士なかよくなるのが理想的ではないかということを、漫画を通して伝えたかった。国境や民族の垣根を越える一助になれば」と、里中さんは強調した。