「在日コリアンとは何者か」「多民族社会をつくるにはどうすればいいのか」、大学や日本のメディアで積極的に発言する一方、在日についての著書を数多く出し、在日コリアンと日本人の共生について様々な場で問題提起をしている。
通名の在日コリアンが犯罪を犯したときに、通称名ではなく本名(民族名)で報道されるのは問題だと、数年前にテレビ番組で発言すると、「通名は偽名だから本名で報道は当然」「犯罪者をかばうのか」など、多くの批判メールが寄せられた。
「出自と犯罪に因果関係がない場合、本名(民族名)を公表することは、プライバシーの侵害につながる危険性があるということを言いたかったが、大学の仕事に影響するほど脅迫状が寄せられ、日本社会の差別の根深さを、改めて見せつけられた」
しかし一方で、在日の人たちから「これからも在日の立場からどんどん発言してください」と励まされたり、市民団体や各地の学校などから講演にも呼ばれることも少なくない。民族差別が存在しているが故に、在日が本名を名乗ることは難しかった歴史がある。
「通名をもっとも使っているのは40~50代の世代だ。ハングルが出来ないのも同じ世代だ。この世代は民族差別の厳しい時代に生まれ、民族教育を受けられる機会も少なかった。一方で登録証への指紋押捺もさせられた世代だ。民族意識を持つにしても、差別への対抗概念という側面が強かった。しかし、時代が変化する中、在日のアイデンティティーも大きく変わろうとしている」
「在日3、4世の15~22歳の若者100人を対象にして、最近アンケート調査を行った。被差別体験、国籍選択などについて聞いてみた。それによると民族名を名乗っている者が34%と、本名使用が既成世代以上に高い数字を示している。将来日本国籍を取りたいと思うものはイエス9%、ノー61%、わからない27%だった。韓国籍による不利益が減り、日本国籍の有利さが相対的に少なくなった側面もあるし、また韓国留学がしやすくなったこともあると思うが、若い世代で民族的アイデンティティーを大切にする傾向がうかがえる。在日は同化し消滅するという議論があったが、この数字を見ればそうではないことがわかる」
重要なエスニックシンボルは、言語(14%)、国籍(12%)が高い数字を示した。だという。また日本国籍を取っても名前は李、朴にするとか、日本の名前を使ったとしても、在日コリアンであることは隠さないという人が、若い世代には少なくない。
「韓国・朝鮮籍でも自己実現できる時代が来たのに伴い、これまでの抵抗概念としての民族意識ではなく、ノーマルな民族意識を持つ在日の若者が出てきたといえるのではないか。ごく普通に金や李の青年が存在し、生活していく、出自を隠さないでも自己実現できる時代だ。実際に映画監督の李相日や、Jリーガーの李忠成、鄭大世、安英学、ほかにも日本の大企業やマスコミで本名で働く青年たちが出てきている。将来日本国籍を取得しても、出自は明らかにするという青年も目立つ。『在日コリアンに生まれてよかった』『2つの文化に触れることが出来る』『韓日両国を冷静に両方見ることができる』というプラス思考、国際感覚を持った青年たちの出現を大切にしないといけない」
既存の在日団体は、在日社会の変化に対する自覚が足りず、彼らのニーズをつかむ努力が足りなかった。それが民族団体の衰退につながっていると批判する。
「これまでのような硬直的な民族組織、民族教育では限界がある。ルーツを共にする人の集まれる場として、風通しのいい組織にしていくことが大切だ。そしてニューカマー(新規入国者)の韓国人との共生も考えないといけない。在日華人の団体などは日本の政党と強いパイプを持ち、政策提言を行っているのに、在日団体にはそういう政治力が起こらなかった。政治力がない団体は相手にされない。在米コリアンが、米国、そして本国での発言力を増しているのと比べると、在日は非力だ。例えば石原知事に政策提言して、それが聞き入れられる、そんな在日が出てこないとだめだ。組織の在り方、人材育成を根本的に考え直す時期に来ている」
「在日のアイデンティティーが多様化しているのはいい傾向であり、多くの若者が自らの可能性を模索してほしいし、在日団体はそれを後押しする責任がある。日本社会もいま多民族社会への転換を迫られているが、在日コリアンはじめ在日外国人の発言にも耳を傾けてもらいたい。私も微力ながら共生社会を作るために今後も発言を続けていきたい」