在日作家の話題作が、相次いで映画、演劇になる。柳美里原作の『向日葵の柩』は、可児市文化芸術振興財団が制作し、11月から12月にかけて岐阜と東京で公演。梁石日原作の「闇に子供たち」は、阪本順治監督によって映画化され、夏に全国公開される。
可児市文化芸術振興財団(岐阜)は、2002年に建てられた可児市文化創造センター(愛称アーラ=イタリア語で翼の意)の運営を担当するとともに、”私たちは「体験」を提供する”を合言葉に、市民がそれぞれの生き方に合わせて楽しめる演劇や音楽を提供する。
その一環として、「アーラ・コレクション」シリーズと題した事業を始める。同シリーズは、10年以上前に舞台化されて評価を得ながら、その後再演されていない作品をリメイクして上演するもので、その第一弾に柳美里の『向日葵の柩』が選ばれた。
「私はこの暗い劇場であなたと本当の話をしたいのです」と作者が語ったように、柳美里の自伝的作品でもある同作は、ある在日韓国人一家の崩壊する過程を追うことで、家族の闇を描き出した。柳美里の出世作でもあり、初演当時、演劇界で話題を呼んだ作品だ。
柳さんは「17年前、22歳の時に書いた作品で、演出台の隣に並んで連日戦っていた。いまは小説を書いているが、今回の公演をきっかけに、芝居の新作も書いてみたい」と話した。
演出は、新宿梁山泊を主宰する在日2世の演出家・役者の金守珍さんが担当する。同舞台の初演(91年)を手がけ、その後、映画『夜を賭けて』を監督して毎日映画コンクール、スポニチグランプリ新人賞を受賞するなど、映画・演劇界で活躍している。
金さんは「家族とは普遍的な問題であり、いま問い直されているテーマでもある。柳さんが身を削る思いで作った、鋭利な刃物のような作品であり、演出が楽しみ」と語った。
出演はテレビ・舞台で活躍する山口馬木也、新宿梁山泊の沖中咲子、広島光、度会久美子、染野弘孝、それに韓国の金応洙氏ら。11月28日から12月6日まで可児市文化創造センター・小劇場、12月12日から16日まで東京の新国立劇場・小劇場で上演される。
映画『闇の子供たち』はタイを舞台に、幼児売買、臓器密売など、罪のない幼い子供たちが安易に金銭取引されている現場を追った、阪本順治監督の意欲作だ。
阪本監督は73年に起きた金大中拉致事件の真相に迫った「KT」など社会問題を扱った作品を多数監督している。
阪本監督は、「梁さんの原作をノートにひたすら書き写し、人物表を作り、幾つものプロットを考えた。(子どもの人身売買という)重たいテーマにチャレンジする責任を感じた」と話す。
梁さんは、「この作品は私の小説の中でも特別な作品だ。大人による子供への搾取、虐待、暴力は尽きない。そこには貧富格差、民族差別、国家間差別などの問題がある。映画化に挑戦した阪本監督の勇気と問題意識の高さに敬意を表したい」と語っている。
江口洋介、宮崎あおい、妻夫木聡、佐藤浩一らが出演し、夏に全国公開される。