欧米の現代戯曲の中から優れた作品を厳選し、日本の最新鋭の演出家によって紹介する「シリーズ・同時代海外編」の第1作となる『昔の女』(2004年ウィーン初演)が、新国立劇場(東京・初台)で始まった(22日まで)。
ドイツの人気劇作家ローラント・シンメルプフェニヒの作品で、演出は若手でいま最も注目されている倉持裕が担当している。
5人の登場人物だけの芝居で、ある家族が崩壊に至る過程を追ったサスペンス風の物語だ。ちすんさんは主人公の息子の恋人ティーナを演じる。
「舞台に出るのは1年半振りで、新国立劇場に出演するのは今回が初めて。目の肥えた観客が多いと聞いているので、緊張している。今回の芝居は、現実にあった出来事かもしれないし、そうでないかもしれない。とても難しい役なので、試行錯誤しながらやっている。ベテランに囲まれているので、経験の足りない自分の演技に歯がゆい思いをすることもあるが、必死に挑んでいる。芝居全体の進行役も務める大事な役なので、とてもやりがいがある」
身長169センチ、クラシックバレエと朝鮮舞踊で鍛えた均整の取れたスタイルと、くりっとした眼の輝きが印象的だ。
大阪出身で、幼い時から民族学校に通う。大阪朝鮮高校卒業を控え、たまたま出演したバレエ公演を吉本興業の関係者が観ていて、人生が変わった。劇団「よしもとザ・ブロードキャストショウ」に誘われ、よしもと入団を決意した。
自他共に認める「負けず嫌い」だが、テレビドラマも「気の強い女性」役が多く、ヒロインの敵役、ライバルなどで次々と出演、好評を博すようになった。
映画も『血と骨』『パッチギ!』(頭突きの意)などの出演を重ね、2006年大阪を舞台にした人情喜劇『かぞくのひけつ』(小林聖太郎監督)に出演し、高い評価を得た。
「『パッチギ!』に出た2005年から芸名を本名からちすんにした。名前が気に入っていたし、広くみんなに名前を知ってもらいたいのでひらがなにした。『かぞくのひけつ』ではゆかりという愛人役で、周囲は評価してくれたが、自分では納得できない演技が多く、その悔しさを忘れずにさらに演技の勉強をしなければと心を新たにした。役者魂を持った真の女優を目指したい」
「『パッチギ!』の撮影に参加して、スタッフが在日のことを理解しようとしながら作品を作っている現場を肌で感じて、とても開かれた気持ちになった。文化も国家も歩み寄ることが大切。韓半島と日本の関係も、在日と日本社会の関係も、直接ふれあい、知り合うことがまず第一歩。そこから本当の意味での関係が始まると思う。私達の存在は複雑だし、いまも在日としての生き方については考え続けている。だからもし、あなたの故郷はと聞かれたら、韓国でも日本でもなく在日としての大阪でしょうか、と答える」
”気の強い女性”から、様々な役に挑戦したいという。
「セクシーな女性、弱い女性も演じてみたい。『焼肉ドラゴン』のような韓日合作の演劇にも出演したいし、韓国や米国の演出家と仕事もしてみたい。アイデンティティーを持った一役者として、色々な仕事に挑戦し”根性のある役者だな”と思われたら最高」