韓国在住の被爆者ら130人が、「長崎や広島で被爆したのに、旧厚生省の違法な通達によって援護を受けられず精神的な苦痛を受けた」として、日本を相手に総額1億5600万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が16日、長崎地裁(須田啓之裁判長)であった。国側は事実認定を前提に和解の意向を示したが、原告側は「事実は明らか」として早期解決を求めた。
在韓被爆者130人は厚生労働省の「402号通達」(74年通達、03年廃止)が違法だったとして昨年末、日本に1人当たり120万円の慰謝料などを求めた集団訴訟を起こしていた。広島、大阪地裁でも同訴訟が起こされている。
これまでブラジルと米国在住の被爆者訴訟では日本が和解の意向を示しているが、在韓被爆者に対し和解の意向を示したのは、今回が初めてだ。ただし国側は和解にあたって、▽通達の存在を知っていたため、援護を申請しなかった▽通達によって実際に援護が受けられなかった、など4点の要件を満たす場合に慰謝料を支払うとし、その確認方法については「今後の協議で明らかにしたい」とした。
これに対し原告側は、「申請書などのデータは全て日本が持っている。国の責任で調べれば分かること」としている。
また同日、韓国の被爆者299人が1人120万円、総額3億5880万円の損害賠償を求めて長崎地裁に追加提訴。広島、大阪両地裁でも追加訴訟の予定で、原告は千人を超える見込み。
■解 説■
在韓被爆者など海外在住の被爆者に対する健康管理手当てについて、「日本から出国した場合には被爆者援護法の適用外となる」とした旧厚生省通達が74年に出され、日本を離れた場合には手当てが支給されなかった。これに対し在韓被爆者らが不当と反発、2003年に通達は廃止された。しかし、その間の未払い手当てについて厚労省は「時効」として支払いを拒否。これに対して裁判闘争が行われ、最高裁は2007年、「通達は違法であった」として、慰謝料の支払いを国に命じた。しかし厚労省は、「海外在住被爆者が提訴して、裁判所が被爆者として事実認定した場合にのみ1人120万円の慰謝料を支払う」とした。そのため在韓被爆者は集団訴訟に訴えざるを得なかった。
◆在韓被爆者の記録映画完成 伊藤園実監督◆
在韓被爆者の証言をまとめたドキュメンタリー映画「狂夏の烙印(らくいん) 在韓被爆者になった日から」が、このほど完成した。監督はドキュメンタリー映像作家の伊藤園実さん(47)。韓国原爆被爆者協会の郭貴勲・名誉会長ら8人の在韓被爆者の証言を記録したもので、2歳で被爆し、家の下敷きになって足がつぶれ、帰国後も学校に通うことが出来ず、靴磨きの仕事をしながら生きてきた男性など、在韓被爆者の苦難の半生が伝わってくる。伊藤さんは、「在韓被爆者を通して、日本の姿を見てほしい」と語る。