■Rシュトラウス歌う 全 詠玉さん(写真・上)
昨年11月、都内で開かれた「第19回友愛ドイツリート(歌曲)コンクール」に出場し、第2位入賞、リヒャルト・シュトラウス協会賞に輝いた。音楽コンクールに出場したのは同大会が初めてで、一般の部の最年少参加者だった。
「最年少ということで不安も大きかったが、自分が今持っている力、若いフレッシュな魅力を充分に発揮できるように心がけた。予選、本選共に大好きなリヒャルト・シュトラウスの歌曲を歌い、目標としていたリヒャルト・シュトラウス協会賞を受賞できたのは何より幸せだった」
「コンクールとは優劣を競う場だが、自分自身との戦いであると思って臨んだ。自分自身の音楽に耳を傾け、今ある想いを演奏に託した事が今回の結果に繋がった」
両親とも音楽好き、特に母は金剛山歌劇団で歌手として活動していた経験があることから、幼少時から多くの歌に触れて育った。
中学時代から『歌手になりたい』と思い、高校2年生の進路調査で「私には歌以外ない」と答え、歌手養成学校への進学を希望したが、「どんなジャンルの歌を歌うにしてもクラシックの基礎を積むことが大切」との母の助言に従い、国立音楽大学の声楽科を受験した。
昨年4月、同大学院に進学し、5月には全国の音楽大学や短大を優秀な成績で卒業した人たちが競う「第78回新人演奏会」(読売新聞社主催)に出演、モーツアルト作曲のオペラ『後宮からの誘拐』第2幕より「いかなる拷問が待ち受けていようとも」を見事に歌い上げた。
「モーツァルトの数あるオペラアリアの中でも技巧的な難曲と言われていて、音域も広くドラマティックな要素もある魅力的なアリア。大学の卒業試験でも演奏した曲なので、思い入れも深く、そういった曲をたくさんの方に聴いてもらい、たくさんの拍手を頂いて、4年間の頑張りへのほうびをもらった気分で胸がいっぱいになった。これからも自分の音楽と向き合い、歌声を通して聴衆に自分の想いを伝えていけるように頑張っていきたい」
今秋には、国立音楽大学大学院が主催するオペラに出演予定だ(演目は未定)。
「人生初のソリストなので、一つでも多くの事を吸収し、最高の舞台にしたい。そして卒業後は、オペラ歌手として活動したい。日本で、世界で、『在日』という立場から発信していく歌い手になりたい」
■夢はカルメンと春香役 南 裕嘉さん(写真・中)
歌唱・演技力とも今後の活躍が期待されるメゾソプラノ。08年8月、荒川区民オペラ第11回公演・喜歌劇「こうもり」で本格的にオペラデビューした。同公演は、区民でつくるオペラコンサートとして、東京・荒川区在住の区民が主体となって合唱団・オーケストラを結成しており、オペラの魅力を伝えるため、ソリストを呼んで毎年行われているもので、南さんはソリストとして、男装の麗人オルロフスキーという難役を見事にこなし、高評価を得た。
「オペラ歌手を目指す者にとってソリストデビューは夢。オルロフスキー役に選ばれたときは緊張した。孤独かつコミカルな役で演技力も要求されたが、それまでの努力をすべて舞台に出すつもりで臨んだ。大きな一歩が踏み出せて本当にうれしかった」
共演した劇画家で声楽家の池田理代子さんにも認められ、池田さんが年に1回主催している若手音楽家のためのコンサート「煌めく歌声 ナレーションオペラ『ドン・ジョヴァンニ』(5月8日、浜離宮朝日ホール)に準主役で出演することも決定した。
東京芸術大学音楽学部声楽科を卒業後、バリトンの牧野正人氏に師事するべく洗足学園音楽大学大学院に進む。07年9月、川本統脩指揮、豊島区夏の音楽祭でメンデルスゾーン作曲の劇付随音楽「真夏の夜の夢」に出演。08年3月にはニューヨークのカーネギーホールで開かれた定期演奏会に、同年5月にはルーマニアで開催されたルーマニア国立管弦楽団とのコンチェルトにそれぞれ出演し、好評を博した。同年9月にはファーストアルバム『Celestial』を発表。
在日3世として、韓日両国で活躍したいとの希望も持っている。
「04年のミスコリアコンテスト在日代表に選ばれ、韓国で1カ月間生活したけれど、祖国の文化を知る貴重な経験だった。韓国の世界的なソプラノ、スミ・ジョーのようにオペラの名曲だけでなく韓国の歌曲も歌える歌手になりたい。韓国への語学留学もいつか実現したいと考えている。日本でマイノリティーとして生まれた経験を歌に生かせればと思う」
「オペラの魅力は普通の人生では経験できないことを、自分の声を通して観客に伝えられること。私の歌を聴きたいという人を少しでも増やし、カルメン、そして春香伝(韓国の創作オペラ)のヒロインを演じてみたい」
■本場イタリアで学ぶ 李 千恵さん(写真・下)
本名は李千恵。日本名の佐田山も大切にしたいと「千恵Lee Sadayama」と芸名をつけた。
昨年9月東京で開かれた「千恵Lee Ssdayama&金永哲デュオコンサート」で、中国3大テノールの一人で、朝鮮族出身の金永哲さんとともにオペラの名曲、韓日の歌曲などを歌いあげた。またアンコールでは、統一を願った韓民族の歌曲「臨津江」を歌って大きな拍手を浴びた。在日3世の期待のソプラノである。
民族学校を卒業後、在日の金剛山歌劇団に歌手として所属し、伝統文化を伝え、在日同胞を励ますため歌い続けてきた。2004年、イタリアのミラノ市立音楽学校声楽科マスタークラスに首席で入学した。
師のアデリーザ・タビアドン声楽科教授からは、「ピュアなソプラノ・リリコ(叙情的)で、深く甘みがある音色。天分に恵まれた素質のある声だ。将来その声はドラマティック・ソプラノにまで発達する可能性がある」と、大きな期待を寄せる。
「金剛山歌劇団での活動は充実していた。歌の魅力を知れば知るほど、本格的に声楽を学びたいと考え、イタリアへの留学を決意した。声楽を学べば学ぶほど、その奥深さを感じている」
04年オランダ・サマーベルカントフェスティバルにソリストとして出演。05年6月には韓国文化観光部の招請を受けて「アリランフェスティバル」に、07 年11月には釜山の「文化の月・芸術祭典」に参加、08年11月には「第3回蝶々夫人国際コンクールin長崎」で入賞した。
「声楽は身体全体が楽器。全身全霊を使って限界まで声を出し、表現するので、とてもやりがいがある。オペラの登場人物の性格、考え方を知るのが大変だ。その人に成り切る様に努力している。一曲一曲に魂を注ぎいで歌い続け、蝶々夫人の主役をいつか演じたい。総合芸術といえる西洋文化の『オペラ』の素晴らしさを伝える音楽家の一人として、より深く勉強し、研究していきたい」
今年マスタークラスを卒業後、プロとして本格始動。ソロのCD発売、11月に岡山、東京でリサイタルを開く。
「在日に生まれ、日本と祖国の文化に触れて育ち、留学してイタリアの文化も知ることができた。それらをミックスした音楽表現を追求し、在日3世として、ありのままに生きたい」