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2010/11/26

<在日社会>在日女性文芸協会・「賞・地に舟をこげ」2人受賞

  • 在日女性文芸協会・「賞・地に舟をこげ」2人受賞

              「在日女性文学 地に舟をこげ」第5号

 在日女性の文芸活動を支援するため、2006年に発足した「在日女性文芸協会」が制定する「賞・地に舟をこげ」の今年度受賞者が決定した。李貞順(イ・ジョンスン、68)さんの「樹を植えに行った話」とぱん ちょんじゃさん(56)の「母の他郷暮らし」が同時受賞した。

 「樹を植えに行った話」の李貞順さんは、1942年兵庫県生まれの在日2世。立命館大学卒業後、79年に工学博士の夫とともに米国に渡った。李さん自身もミシガン州立大学工学部で学び博士号を授与された後、イリノイ大学で研究員として活動してきた。現在はワシントンに暮らしている。今回の受賞作は、在日2世としての生い立ちから米国での生活までを、在日の視点でまとめたものだ。

 植民地時代の1920年代に日本に渡り、厳しい労働に従事した祖父母、解放後の1947年親に連れられ5歳で韓国に戻るも、韓国戦争の混乱で、母に連れられ日本に密航で戻る歴史は、多くの在日が経験した苦難の道のりそのものだ。

 成長し結婚するが、夫は優秀な工学博士であるにも関わらず、就職先を見いだせなかった。日本社会の民族差別はそれだけ厳しかったのだ。

 79年、片言の英語しか話せないまま、米国シカゴに渡り、その広大さに圧倒されながら、夫婦で研究活動に従事する。米国黒人や世界から集まった移民との交流の中で、マイノリティーの問題が世界中にあることを実感し、在日を客観視するくだりは特に興味深い。さらにオバマ大統領誕生を歓迎する米国民の姿に、将来への希望を見いだす。

 もう一つの「母の他郷暮らし」は、関西在住の在日2世、ぱんちょんじゃさんと母の半生の記録だ。17歳で顔も見たことがない父と結婚し、植民地時代、韓国戦争と祖国の混乱に振り回された母、文字が読めず83歳になる母への聞き取りを通して、明らかにする。

 また在日であることが嫌でひたすら隠して生き、民族的に目覚めると、祖国の民主化のために活動する著者の半生も興味深い。

 高英梨(コ・ヨンリ)・在日女性文芸協会代表は、「個人の体験を深く凝視するところから歴史の中を生き抜いてきた人間の普遍的な姿が浮かび上がってくる」と評している。

 在日女性文芸協会は、文芸総合雑誌「地に舟をこげ―在日女性文学」の発刊と、「賞・地に舟をこげ」の選定を活動の柱にしている。2作品は同誌第5号(社会評論社)に掲載されている。