世界的に著名な現代美術家、李禹煥氏(74)の大規模な回顧展が、6月にNYグッゲンハイム美術館で開催される。それに先立って新作展が、東京・根津の白石コンテンポラリーアートで開催され、ペインティング6点が展示されている(3月5日まで)。李禹煥さんに話を聞いた。
――新作展では、点を描いた新作を発表したが。
6月の回顧展を控え、久しぶりの個展を開いた。美術も大量消費の時代だが、私はその傾向に懐疑的なので逆に制作を少なくした。作品もより単純明快、無味乾燥になった。キャンパスに点を描き続けているが、その点が次第に減り、十数個から数個、そして一つか二つになった。それを世界の人々に見せるのだから、勇気がいる試みだ。
よく人から、「李禹煥さんの絵は単純だけれども力強さがある。絵の前に立つと襟を正したくなる」と言われる。私が長年行ってきた作業が、そういう雰囲気を作っているのかもしれない。
――ニューヨークでの回顧展について。
グッゲンハイム美術館から3年ほど前に打診があった。現代美術を根源的に見直し、再出発点を考えるための一つのきっかけとして、私を選んだ。世界中にある私の作品から100点近くを選んで展示する。テーマは「李禹煥 無限の提示」(仮題)だ。哲学者が言う「無限」ではなく、人間は関係性の中で大きく変わるということを「無限」と表現した。特定のイデオロギーに凝り固まらず、柔軟に変わるという意味を込めた。
――香川県直島に昨年、李禹煥美術館が誕生したが。
個人美術館には関心がなかった。しかし、友人の建築家・安藤忠雄氏に強く勧められた。欧州や韓国から大勢の来館者がいると聞いている。私の作品自体は十数点と多くないが、空間を見せる絶好の場になっている。
――創作方法についてお聞きしたい。
70年代、規則正しい絵を描き続けようとしたら、身体に不調を来たして描けなくなった経験をした。特定の概念に制約され、身体が耐えられなくなっていたのだ。そこで不協和音のような、ぎくしゃくした絵を描いたら、逆にその絵がいいと思えるようになり、体調も良くなった。絵画の基本要素である「点」を描くことを突き詰めたら、現在の作風になった。今回の個展に出した、点が一つだけの作品は、単純に見えるが、作るとき、一度描いて乾かしまた塗る。それを繰り返すので40日はかかる。私は手仕事の世代だが、現在はコンピューター技術が発達している。美術の新たな広がりを、次世代が今後追求してくれるだろう。
――最後に在日の若者にメッセージを。
在日は生まれながらに、様々な要素がミックスされた存在だ。韓国・日本の両義性、両面性を持っていることをばねに強く生きてほしい。それこそが在日の存在理由であるし、両国の人々に伝えたい。国家や民族に収れんできないのが在日だ。国家や民族を乗り越えて生きてほしい。いまの時代、在日こそナショナリズムを乗り越える、新しい立場、新しい存在だと強調したい。