在日女性の文芸活動を支援するため、2006年に発足した「在日女性文芸協会」が創刊した「在日女性文学 地に舟をこげ」が7号をもって終刊することになった。「在日女性の文芸活動発展に足跡を残した」と終刊を惜しむ声が強い。
在日女性文芸協会は、これまでの男性中心の視点で書かれた在日文学ではなく、女性の視点で在日社会、韓半島、世界を見つめた新しい文学を生み出すために、神奈川在住の在日2世、高英梨さんが私財を投じて設立し、自ら代表を務めて運営してきた。
在日女性文芸誌「地に舟をこげ」の発刊とともに、「賞・地に舟をこげ」を制定し、作品の応募を募った。「地に舟をこげ」のタイトルには、「地に舟をこぐのは困難だが、やり通して行きたい」との決意が込められている。
同賞はこれまで4人の受賞者を生み出し、作品は単行本化もされた。
同会では、「在日女性の文化の力を養うために、共に修練し、励ましあうという志のもと、多くの在日女性の支持を得ることができたことは大きな喜びだった」と話し、多くの在日女性たちの今後の歩みに期待したいとしている。
◆第4回受賞、李貞順(リ・ジョンスン)さんに聞く◆
第4回「賞・地に舟をこげ」の受賞作は、李貞順さん(70)の「天が崩れ落ちても 生き残れる穴はある 二つの祖国と日本に生きて」(梨の木舎から発売中)。
李さんは1942年兵庫県生まれ。韓国に戻った後、韓国戦争の混乱で53年5月、母に連れられて馬山を発ち日本へ。祖国に寄与したいと工学を学び、工学博士となる。その後、夫とともに米国へ渡り定着するまでの、二つの祖国と日本に生きた女性の、波乱万丈の半生がつづられる。米軍兵に誤って片足を打ち抜かれたある占い師の女性、日本社会での差別と偏見、50年代末、北への帰国運動に感じた矛盾等々、社会に対する著者の鋭い視線が感じられる。
李さんは、「私たち在日はどの社会でもアウトサイダーだが、だからこそ社会を客観的に見ることができたと思う。米国にも矛盾はあるが、法的に平等なのは大きい。韓国戦争では子どもながらに多くの悲劇を見たが、米国の若者も自国では普通の若者だ。アフガンやイラクでの米軍の事件を見ると、その時の経験が思い出され、平和への思いを強くする」と話す。
また「日本の人には、在日はさまざまな立場の人がいることを知ってほしい。また在日は文化の質を向上させ、日本社会の在日を見つめる視点を変えてほしい。私も一助を果たしたい」と強調した。タイトルは韓国のことわざから取った。