◆ 釜山の標識 ◆
高円宮殿下が車中から撮られた釜山の道路標識。左に行けばチャガルチ市場と表示されている(写真:上)
今回はちょっと不思議に思う読者もいらっしゃるかもしれませんが、道路標識の写真です。人間(ホモ・サピエンス)はかなり早い時期から道しるべを利用するようになりました。ほかの霊長類では、いくつかの説はあるものの、いまだ確認されていません。カナダの北極圏で見たイヌックシュックも石を積み上げた道しるべですが、ハンターたちの勘はかなり鋭く、雪嵐のあと、まわりの景色がまったく変わってしまっても、方向がわかるようです。
また、アフリカのマサイ族の人たちも(マサイ族に限られたことではないかもしれませんが)私たちの3倍程の視力をもっていますし、聴力もとてもすぐれています。文明社会といわれていますが、ほんとうにここまでカーナビに頼って運転していて良いものか考えてしまう時もあります。
道路標識は交通事故や渋滞を防ぐ目的で、交通規制や道路の状況を自動車の運転手や通行人に伝えるものです。標識には、規制、案内、警戒、指示というような役目がありますが、夜も見えるように反射塗料で書かれていて、遠くからでもよく見えるように大きくなっています。「道路標識マニア」も存在するようですが、道路標識が世界各国で「似ているものの、実は違っている」ところに惹かれるようです。
韓国の道路標識は日本同様、あまり外国人にとって親切ではありません。大都市の中はローマ字を併記してありますが、他はほとんどハングル表記です。日本人が韓国で運転するためには、右側通行とハングルの道路標識解読というダブル難関をクリアしなければなりません。それこそ便利なカーナビが存在しそうですね。
宮様は、外国訪問の際に、たびたび道路標識の写真を撮っていらっしゃいました。その国にいる証にもなるからでしょうか。臨場感のためでしょうか。この写真はチャガルチ市場に向かっているときにお撮りになったものですが、FIFAワールドカップのサインもフレームに入っています。今後韓国に行っても、FIFAの標識はもうありませんので、リアルタイムでとらえた貴重な記念写真です。
私たちは写真のために車列を止めるわけにはいきません。宮様は動いている車の中からもよく写真をお撮りになりましたが、いつもピントは合っていました。私が同じように写真を撮ると必ずぶれてしまうのは、なぜなのでしょう。また、無意味にたくさんお撮りになるのではなく、一枚一枚を「出会い」と考えてシャッターを切っていらっしゃいました。写真とは、きっと私が思っていたよりも、ずっと奥の深いものなのでしょうね。(高円宮妃殿下)