◆ 国立墓地 ◆
国立墓地で焼香する高円宮殿下。この後、「憲仁」と丁寧に記帳された(写真:上)
韓国に到着して間もなく国立顕忠院(ヒョンチュンウォン)を訪れました。
1955年に国軍墓地は軍人だけの墓地として設置されましたが、十年後に国立墓地となり、殉国・愛国の士、国家有功者、警察、予備軍などの関係者も埋葬されるようになったと伺いました。三方は山に囲まれ、残り一方には川が流れているとても美しい所です。1996年に国立顕忠院に名前を変えたとのことでした。
その日はとてもお天気もよく、爽やかに晴れわたっていました。私たちは国立顕忠院長の出迎えを受け、渡された手袋をはめてから、列を整えました。そして、多くの報道関係者のカメラと視線がこちらに向いている中、できる限り気持ちを集中させ、顕忠院長と52師団長に挟まれたかたちで、ゆっくりと顕忠碑の前へと進みました。
日本大使館の防衛駐在官が、顕忠院長の号令を日本語に訳してくれたのでとても助かったのを覚えています。儀仗隊が並ぶ前を通るときも韓国国旗に歩きながら軽く頭を下げて敬礼するのですが、そのタイミングも指示してくれました。献花台では宮様だけが献花をなさり、私は言われた位置に立っていればよかったのですが、その後は二人が並んで焼香台まで行き、一人ずつ焼香をいたしました。
宮様が何をなさっていらっしゃるかは私の立っている位置からはわかりません。三回焼香、ということは聞いていたので、いつもの日本での焼香と同じように考えておりましたが、実際前に進んでみると、かなり戸惑いました。お線香が3㌢から5㌢位の長さに折ってあり、一度に一本を三回するのか、一度に数本なのかよくわかりません。もちろん「一握り」だって可能なわけで、緊張いたしました。
最終的には5、6本ずつお焼香いたしましたが、宮様のほうが控えめになさったとあとで伺いました。その後「キョンネ(敬礼)!」の号令でお辞儀し、「パロー(直れ)!」で直り、「ムンニョム(黙祷)!」で黙祷し、また「パロー!」。間違えないように気をつけながら、宮様と心を込めて参拝させていただきました。
務めを無事に果たせて、ちょっとほっとした気持ちで退場してくると、立派な記帳台にこれまた立派な記帳簿が置いてあり、先ほどの報道関係者がまわりを取り囲んでいました。その見守るなかで、宮様は「憲仁」と20画もあるお名前を丁寧にお書きになり、私は「久子」と6画しかない名前を署名いたしました。
韓国での最初の公式行事でした。(高円宮妃殿下)