◆ 石窟庵 ◆
仏国寺の上にある大きな鐘。(写真:上)鐘は低い位置に吊るされ、地面がお椀のように掘り下げてられている。(写真:真中)
この写真の鐘楼は石窟庵(ソックラム)に上っていく参道の入り口近くにあります。ちょうど街を見下ろすようなところに建てられており、きっと鐘をつくとすばらしい音色があたりに響き渡るのではないかと思います。
韓国の梵鐘は中国や日本のものと違う独特の形態を保っています。仏教美術と研究をしている友人たちの話では細部の装飾が特に精巧で、音も響きもいちばん良いとされているそうです。統一新羅の鐘で一番有名なのは西暦771年に鋳造された大鐘、慶州の聖徳大王神鐘でしょう。鋳造がなかなかうまく行かず、ある母親が生け贄として差し出した少女を釜に鋳込んだところ、鋳造に成功したという伝説があります。しかし鐘の音色は、今でもその子の「エミレ!エミレ!(おかあさん)」と母親を呼ぶ声に聞こえるのだそうです。
伝説はとても悲しいものですが、この鐘の大きさや姿の美しさという点では大変優れた作品であるといわれています。今回の訪問では、この別称「エミレの鐘」は見られませんでしたが、次の機会には当時の名工が作ったこの代表的な梵鐘を近くで見て、是非音色を聞きたいと思っています。
水原華城(スウォン・ファソン)では、孝園鐘閣(ヒョウォン・チョンガク)で鐘を突かせていただきました。副市長の説明では鐘は三回突くもので、一回目は親のことを思って、二回目は家族の幸せを祈って、三回目は自分の夢がかなうように願って突くのだそうです。たくさんの報道関係者に見られながら、願いを込めて鐘を突くのはなかなか集中力を要するものでした!
このとき、宮様も私も、鐘が低い位置に吊してあることを珍しく思いましたので、つぎに写真の鐘楼をみつけたとき、近くまで見に行きました。ご覧のように、やはり低く吊るしてあります。しかし、大晦日に日本各地の除夜の鐘を映し出す画像を思い浮かべていただくとわかりやすいと思うのですが、日本の鐘は高い位置に吊るしてあります。これは、音が共鳴して遠くまで響くように考えてのことでしょう。
音楽好きの宮様は「なるほど・・・共鳴させるために、下が掘ってあるんだ!」とご納得。よく見ると、確かに鐘の下が浅いお椀形に掘ってあります。その後、日本に帰ってから、本でじっくりみると、韓国の鐘は全部低く吊るしてあり、その下はやはり掘ってありました。
両国に響く梵鐘の荘厳ながらも澄み切った余韻のある音色は、聞く人々の心を清らかにしてくれます。韓国と日本の文化の共通しているところ、違うところなど、いろいろ勉強しながら考えていきたいと思っております。(高円宮妃殿下)