◆ ガソリンスタンド ◆
伝統的な建築様式の屋根が独特な慶州のガソリンスタンド。高円宮殿下は「屋根が違う」とおっしゃって車中から撮られた(写真:上)
ソウルでの史上初めての二カ国共催のFIFAワールドカップ開会式、開幕戦を無事に終え、翌朝私たちは慶州へと向かいました。私が考えていたより遠く、釜山の金海空港まで一時間かかりました。この写真は釜山から慶州市への移動中に宮様がお撮りになったものです。
私たちの車列が高速を使ったのか国道7号線を使ったのか、はっきり覚えておりませんが、窓からの景色を十分楽しむことができました。最初、「外国に来ている感じがしない」と宮様がおっしゃるので、詳しく伺うと、「とても九州に似ている」とのこと。確かにそうかもしれない、と思っていると、「屋根が違うけれどもね」と仰せになりました。よく見ると、美しい山を背に建つ寺院の屋根や、水田や畑が続く中、時々見る民家の屋根は、確かに、通常日本で見るものと色や反りが違っていました。自然があたえてくれた地形や風土が似ていても、人間の文化が違う「味付け」をしているのですね。
その後、宮様と顔を見合わせて笑ってしまったのは、通り過ぎたガソリンスタンドの屋根までもが、伝統的な雰囲気をかもし出していたこと。なんともすてきな感じで、次のガソリンスタンドも同じようなら、是非、写真に収めようとカメラを取り出し、窓を開けて、待ち構えていらっしゃいました。すると、次のも、またその次のも、写真のような瓦屋根の建物でした。走行中の車からお撮りになったので、シャッターチャンスが難しくていらしたようですが、タンクローリーも止まっていて、なかなかおもしろい光景だと思います。
この大都市釜山と古都慶州を結ぶ道はとても風光明媚なところです。仏教を広めた新羅王朝の首都が慶州であったということもあり、韓国のもっとも有名な寺院がおよそ70㌔㍍内外のところに驚くほど「ひしめいて」おります。伝統的な韓国文化遺産がたくさん残っているので、近代化とともに必要となったガソリンスタンドを、どのように風景のなかに溶け込ませるか、大きな課題だったのではないでしょうか。
多くの信者、学者や観光客が訪れる場所だけに、「こだわり」をもち続けて、この一見「九州に似た」風景を、いつまでも大切にしていただきたいと思います。(高円宮妃殿下)