韓国政府は、急速に進む少子化を食い止めるため、現在満6歳となっている小学校就学年齢を5歳に引き下げるほか、第3子以降の大学入学や公共機関への就職優遇――など総合対策を推進する。李明博(イ・ミョンバク)大統領直属の未来企画委員会を中心に具体案の検討を進め、来年中に「低出産高齢社会5カ年計画」(2011~15年)を確定し、実行に移す方針だ。
李大統領は低出産対応戦略会議で、「少子化問題は国家の未来にとって重要な国政課題であり、超国家的次元で速やかに実行してほしい」と延べ、総合対策の早期施行を指示した。韓国政府はこれまで、▽不妊夫婦に対する試験管ベビー施術費用の支援▽満4歳以下児童の保育・教育費補助▽子供が3人以上いる多子家庭への公共住宅特別分譲などを実施してきたが、出生率上昇に結びつくほど効果が上がっていない。昨年の合計特殊出生率(1人の女性が一生の間に産む子供の数)は1・19人で全世界平均(2・54人)の半分にも届かず、出生数も前年より3万人少ない46万5900人にとどまった。
このため未来企画委は、より深化した少子化対策として▽養育負担の軽減▽多子家庭への支援拡大▽仕事と家庭の両立基盤の強化▽シングルマザーなど多様な形態の家族に対する支援拡大▽韓国人増員プロジェクトなどを重要な柱に掲げた。
未来企画委の郭承俊(クァク・スンジュン)委員長は「少子化の最大の原因は養育負担にある」とし、小学校就学年齢の引き下げを少子化対策の最優先課題に挙げた。郭委員長は「小学校入学者数を段階的に増やしながら、4~5年の期間で全児童の就学年齢を引き下げられる」と説明、現政権の任期内に実現することを強調した。
韓国では幼児期から英語塾などに通わせるなど、就学前までに数千万ウォンを幼児教育に投資する親も多い。小学校就学年齢が早まれば、幼稚園や塾などに通う期間が短縮され、教育費の節減になる。大学卒業後の就労年齢も1年早まり、家計負担も大幅に軽減される。
第2の柱は、第3子以降の教育費補助と、大学入試・就職の優遇など、多子家庭への支援だ。全在姫(チョン・ジェヒ)・保健福祉部長官は「女性の育児負担を軽減し、出産後の雇用不安を解決するなど、国家と社会全体で支援することも大事だ」と強調した。働く女性が仕事と家庭の両立を図れるようにするため、夫にも育児休暇の取得を奨励する一方で、妊婦の社員を優遇する企業への支援も検討する。
また、妊娠中絶件数が年間34万件で、うち14万件ほどが未婚女性によるものであるとの報告を受け、中絶を減らすためのキャンペーンやシングルマザーへの財政支援なども行う。さらに、二重国籍を認め、海外の優秀な人材を国内に誘致する「韓国人増員プロジェクト」も推進する。
しかし、これらの政策を実行に移すためには政府の財源確保や、社会全体の合意形成など課題も多い。現在も親が希望すれば満5歳で就学できるため、就学年齢の引き下げを制度化することには疑問の声も出ている。
世界的にみると、小学校の入学年齢は満6歳の国がもっとも多い。韓国教員団体総連合会が2005年に42カ国を対象に行った調査によると、韓国、米国、カナダ、フランス、日本、香港など27カ国・地域が満6歳で、スカンジナビア3国やシンガポールなど10カ国・地域が満7歳、満5歳の国は英国を含む英連邦6カ国・地域にすぎない。幼児教育団体は、「満5歳の児童すべてが小学1年の教育課程について行くことは難しい。教育現場に混乱を引き起こすだけだ」と反対している。就学を先送りする「入学モラトリアム」が急増するとの懸念も出ている。