生前、日韓友好のため尽力された高円宮殿下の遺志を受けて昨年12月に設立された「一般財団法人 高円宮記念日韓交流基金」の第1回顕彰式が10日、東京四谷の韓国文化院で行われ、韓日の4団体が顕彰された。式典の模様を振り返る。
顕彰式典は、渡辺泰造・高円宮記念日韓交流基金理事長のあいさつで開会、名誉総裁・高円宮妃殿下のおことばと続き、元駐日韓国大使の羅鍾一(ラ・ジョンイル)・名誉顧問のあいさつ、川端達夫・文部科学大臣、権哲賢(クォン・チョルヒョン)・駐日韓国大使が来賓祝辞を述べた。続いて、須々木智行・高円宮記念日韓交流基金事務局長が「本年度は日本と韓国の有力な76団体に推薦をお願いして38件の応募をいただきました。内訳は、教育・文化関係が29件、スポーツ関係が9件で国別では日本が33件、韓国からは5件でした」と顕彰報告を行い、授彰4団体についての説明が行われた。
壇上では、渡辺理事長が、東アジア交流ハウス雨森芳洲庵の平井茂彦館長、伊万里市剣道少年団の川久保健児教士、川崎・富川(プチョン)高校生フォーラムハナ交流会サポーター代表の風巻浩教諭、日韓親善脳性麻痺障害者サッカー大会ゴムドゥリ・サラン会の申喆淳(シン・チョルスン)会長の4団体代表に賞状と副賞を贈呈、高円宮妃殿下が高円宮賞を4団体代表に授与なされた。
続いて受賞4団体代表による受賞者謝辞が述べられた。
平井館長は、「草の根交流という絆の強さは、日韓でいろいろな問題が起こって交流が中止や延期になった時も途絶えることなく続いてきました。今までに小さな農村、隣近所の村に韓国の友達が、みんなの家に泊まっているような交流は、全国でもほとんどないと言われてきました。これからも雨森芳洲の心を受け継ぎながら、今日いただいた高円宮賞という栄えある賞の殿下のお心を少しでも心に思い起こしながら、忘れることなくこれまでの交流を続けていきたいと今、心に強く感じております」と受賞の喜びを語った。
続いて、川久保教士は、「韓国でも盛んな剣道を通じて互いに竹刀を交え、習慣、言葉、文化の違いを互いに認め合いながら、子どもたち同士の交流を行っています。政治的に日韓のトラブルがあった時期でも、伊万里市は焼き物の産地で、あなたたちは李参平の末裔だから里帰りするだけと言って頂き、末永く交流を続けております。地元に帰り、皆とこの喜びを分かち合いたちと思います」と述べた。
風巻教諭は、「私たちの特徴の一つとして在日コリアンの高校生たちが参加しており、韓国、日本、在日の3者の交流を行っています。草の根レベルの市民交流は非常に大事だと思っていますが、日本の市民、韓国の市民というだけでなくてアジアの市民としての気持ちが参加者の間で広がっているのを実感しています。日本と韓国、在日の3者の交流の中で、しがらみが生まれたわけですが、それを乗り越えようとする彼らの熱き想いが、この10年を作り上げてきました」と述べた。
最後に申会長は、「この賞は私どもの選手たちが、これまで22年間一生懸命やってきた結果であり、私は代理に過ぎません。非常に苦しい練習を重ねてきた選手たちに希望を分けてくださった皆様がいらっしゃったからこそ可能でした。本当にありがとうございました」と述べた。
◆ 高円宮妃殿下のおことば ◆
本日は高円宮記念日韓交流基金の顕彰式典にお集まりの皆様とお会いできますことを大変うれしく思います。特に日本のみならず、韓国からも青少年の草の根交流に携わる方々や、それを支援する企業や団体の皆様にお越し頂き、この式典が非常に意義深いものとなりました。
殿下はワールドカップの行われた2002年の11月に亡くなられましたが、国と国との友好は人と人との交流が基本にあるというお考えをお持ちでした。こうした宮様のご遺志を受け、教育、文化、スポーツ分野での青少年交流事業の顕彰を通じて未来志向的な日韓関係の構築を目的とする高円宮記念日韓交流基金が、昨年12月に設立されたことは私ども関係者の共通の喜びでございます。
本年が初年ということで一体どのような交流事業があって、その中で顕彰に値する事業が本当にあるのかなど、内心少し案じておりましたが、選考委員の皆様や事務局のご苦労のおかげで大変立派な交流活動が4件選考され、今日ここに表彰させていただくこととなりました。
選考委員の皆様には、日韓を代表する有識者の方々で、お忙しい中ご協力くださいました選考委員の皆様、そして事務局の関係者の皆様には名誉総裁といたしまして、この場を借りて心より感謝申し上げます。
授彰から漏れた案件にも立派な交流事業が多数あり、選考委員会での選考は難航したようですが、あくまで市民による草の根交流で一定期間長く継続していることなどが評価されて4件の交流事業の授彰が決まったとうかがっております。
滋賀県の高月町で行われている芳洲の里青少年交流事業。佐賀県伊万里市で行われている日韓親善少年剣道交流事業、神奈川県川崎市で行われている川崎・富川高校生フォーラム・ハナ交流事業、韓国ソウルで行われている日韓親善脳性麻痺障害者サッカー交流事業ゴムドゥリ・サラン会には、今までのご活動に敬意を示し、今後のご活躍を期待しております。こうした活動が市民の皆さんの善意により、静かに続いてきたことに、私は強い感銘を受けました。
国と国をつなぐためには、まず一人ひとりが仲良くなること。そして、相手に対して敬意を持つことです。
日本と韓国はそれぞれ固有の文化と歴史をもっており、実際に互いの国を訪問し、人と接することから始めて、教育やスポーツを通じて相手の立場に立って考え、相互理解に至ることが国際交流の何よりの近道だと考えます。
地道な草の根活動によって日本と韓国の人々の出会いの場が広がり、友好の輪が次第に大きくなっていくことを願って、私の式典に寄せる言葉といたします。
◇◇ 開会のことば ◇◇
◆「地道な活動応援」―― 高円宮記念日韓交流基金 渡辺 泰造 理事長
顕彰事業は当財団の中心事業で、長年にわたり活動し、昨年度において顕著な業績を上げた事業を日韓の有識者で構成する選考委員会で選考し、名誉総裁の高円宮賞を贈呈しようというものです。初年度である今年は、公正な選考の結果、両国から4件の受賞が決定しました。いずれも地道に活動を続けてきた立派な成果を上げている交流事業です。こうした草の根交流のあることを世に広く知っていただき、こうした活動が次第に広がっていき、両国の友好親善がますます高まることを願ってやみません。
◇◇ 名誉顧問あいさつ ◇◇
◆「友好増進の礎に」―― 韓国又石大学総長 羅 鍾一 元駐日韓国大使
このほど韓日交流増進のため故・高円宮殿下のお名前を冠した財団を設立することになりました。基金設立に至るまでは、さまざまな困難を乗り越えなければなりませんでした。困難を乗り越えて設立された基金の設立にあたりまして皆様にこの場をお借りしてご尽力に対しまして心よりお礼を申し上げます。殿下のご業績を称えながら私は、この基金が今後、韓日友好増進の礎の一つになることを固く信じております。今後、基金がさらなるすばらしい業績を残し、ますますご発展することを心よりお祈りいたします。
◇◇ 来賓祝辞 ◇◇
◆「市民交流が重要」―― 川端 達夫 文部科学大臣
日韓両国の若者が、教育、文化、スポーツを通じて共に高め合い、友情の輪を広げていくことは、時代を超えて両国友好の架け橋になっていくものと確信しております。教育、文化、スポーツを主管する文部科学省は、これらを通じた国際交流につきましても推進しているところですが、本日授彰されました市民レベルの交流が果たす意義は極めて重要かつ大きいものがあります。
変化著しい国際社会において、日韓両国の青少年が、明るい未来志向的な友好環境を築いていくことを願ってやみません。
◆「相互理解高める」―― 権 哲賢 駐日本国大韓民国特命全権大使
政府や地方自治団体による国際交流事業はたくさんございましたが、国民と国民の間で、市民のレベルで本当に草の根交流を行うということは、大変珍しいことでして、本日の表彰はその意味はさらに大きいと存じております。たくさんの痛みや緊張関係があったにも関わらず、今日のような韓日関係が維持できるようになったことは草の根の文化交流事業が活発に行われたおかげだと思います。この事業がさらに繁栄し、さらなる発展を成し遂げて韓国と日本が近くて近い国になることに貢献することを願っております。
◇◇ 受賞4団体紹介 ◇◇
■ 東アジア交流ハウス 雨森芳洲庵 ■
江戸時代に朝鮮との善隣外交に尽力した雨森芳洲のふるさとである滋賀県高月町を拠点とした地域交流で中高生のホームステイの受け入れ・派遣、町づくりフォーラムの開催等、多彩な活動を展開している東アジア交流ハウス雨森芳洲庵。
郷土の先人の志を引き継ぎ、わずか110戸の小さな農村で、館長を中心に地域を挙げた交流事業を展開し、中学生の積極的な取り組みをはじめ、全員参加の活動を継続している。
■ 日韓親善少年剣道交流 伊万里市剣道少年団 ■
大邱大学顧問の協力により20年前に釜山を訪問、以来、隔年で小中高生の剣道交流会を相互に開催し、武道を通じて少年の健全育成をめざしている伊万里市剣道少年団。
ホームステイなどの交流も併せて実施している。20年間にわたって民間主導で継続されている自主的活動で、剣道を通じて人として守るべきマナーとエチケットの大切さを知り、体験学習と国際理解の場となっている。
■ 川崎・富川高校生フォーラム・ハナ交流会 ■
神奈川県川崎市と京畿道富川市の高校生交流で、日本人、在日コリアン、韓国人の三者が一体となることをめざした活動を2000年から継続し、準備会議を経てインターネット会議、ホームステイ、フォーラムなどを開催している川崎・富川高校生フォーラムハナ。日本人、在日コリアン、韓国人が一つになるためのハナ交流会を通じて、生活文化の違いや共通点を学び、お互いが尊重できる環境づくりを果たしている。
■ 脳性麻痺障害者サッカー ゴムドゥリ・サラン会 ■
脳性麻痺障害者による青少年サッカー交流のゴムドゥリ・サラン会。
韓国と日本、互いの文化に触れながら障害者の自立をめざし、サッカーを通じて友好を深め、身体障害者を対象とした世界最高峰のスポーツ競技大会パラリンピックへの同時出場をめざしている。
障害者サッカーという陽の当たらない分野で20年以上にわたって活動を支援・継続し、障害者に勇気と希望を与えている。
◇◇ 選考委員紹介(全6名) ◇◇
◆「第1回顕彰式に寄せて」―― 東京大学 小田島 雄志 名誉教授
受賞された4団体の代表の方たちのスピーチを聞いて、それぞれの立場で精一杯、草の根の活動をなさっているのが分かって、胸が熱くなってきました。滋賀県の「芳洲の里」の泊りがけの青少年交流で最終日、名残惜しくて韓国の子供たちがみんな泣き出したということを聞いて、本当に嬉しかった。このような子供たちの心を思えば、大人たちがいがみ合うのは実に情けない。
今回の顕彰で、みなさんの努力されたことが励まされて本当に良かったと思います。最終選考に残った10団体はみな素晴らしかったのですが、今回は交流を10年以上続けていることが基準でしたので、3、4年のためもれてしまったり、地方自治体から援助を貰っているため泣く泣く落としたものもありした。事業仕分けではないですが、本当にみんな取り上げたかったというのが選考委員全員の率直な気持ちです。
私としては、日韓の間にこんなに多くの交流があることを知らなくて本当に恥ずかしい思いです。個人的には私は中学生のころ剣道部にいたので、剣道交流の人たちが顕彰されたことが印象的でした。
戦後、剣道は日本では衰退している感がありますが、こんな風に草の根的に活動が行われ、韓国にも広がっているのには驚きました。
剣道の精神は、心をとぎすまし、真っ向から相手をみて、自分もみる。これが一番の基本です。この精神は、国際交流で相手を知ることで自分も知ることになります。礼儀を重んじ、いまの若者たちの言葉遣いの曖昧さを治すことにもつながると思っています。
選考ではまた、日韓に中国も入った大学院生たちの活動が交流年数不足で落ちましたが、個人的なにはこういうアカデミックな交流も取り上げた方がいいと思います。教育、文化、スポーツが顕彰対象ですが、小中高だけでなく高いレベルのものもあっていいと思います。
とにかく、いままで知らなかった活動がたくさんあり、もっともっと社会に見えるようにすべきです。今回の第1回顕彰は始まりに過ぎず、継続する必要があります。いろいろな層に広がっていくことを期待します。
日本人は外国の文化を受け入れるのはうまくて、自分たちの口に合うように日本化するのに巧みですが、日本の伝統的なものをアピールするのはうまくありません。
グローバル化時代の今日、世界各地と交流を盛んにしなければなりませんが、まず一番近い隣国と始めるのが順序だと思います。
小学生のころから始めれば両国間の交流は自然と進んでいくと思うのです。日本人にとっては自信をもってアピールする機会にもなります。これを機会に国際交流がもっともっとスムーズに進んでほしいと願います。
おだしま ゆうし 1930年満州生まれ。東京大学英文科卒業。東京大学名誉教授。演劇評論家でもあり、シェイクスピアの全戯曲を翻訳し、80年芸術選奨文部大臣賞受賞。
◆日本サッカー協会 川淵 三郎 名誉会長
かわぶち さぶろう 1936年大阪生まれ。早稲田大卒。55年サッカー日本代表。古川電工監督などを経て、91年Jリーグ初代チェアマン。日本サッカー協会名誉会長。
◆慶應義塾 安西 祐一郎 前塾長・学事顧問
あんざい ゆういちろう 1946年東京生まれ。慶応大卒。88年同大理工学部教授、2001年から09年4月まで同大塾長。08年紫綬褒章受章。
◆バイオリン製作者 陳 昌鉉 さん
チン・チャンヒョン 1929年慶尚北道金泉生まれ。明治大卒。84年バイオリン製作者協会の無監査マスターメーカー製作家に認定。
◆元プロ野球選手 張本 勲 さん
はりもと いさお 1940年広島生まれ。通算7度首位打者を獲得するなど活躍。3085安打・504本塁打記録達成。野球解説者。
◆東京大学・情報学環 姜 尚中 教授
カン・サンジュン 1950年熊本生まれ。早稲田大卒。西ドイツ留学などを経て、2004年から東京大学大学院・情報学環教授。
■ 財団概要 ■
[ 名 称 ] 一般財団法人 高円宮記念日韓交流基金
[ 設 立 ] 2008年12月1日
[ 目 的 ] 日本と韓国の友好に尽力された高円宮殿下を記念し、日韓パートナーシップに基づく教育・文化・スポーツを中心とした青少年交流及び学術交流などの顕彰・助成を通じて未来志向的な日韓関係を構築することを目的とする。
[ 役 員 ] 名誉総裁 高円宮妃殿下
名誉顧問 韓国又石大学総長・元駐日韓国大使 羅 鍾一
理 事 長 2005年日本国際博覧会日本政府代表理事 渡辺 泰造
理 事 LG電子ジャパン 李 揆弘・代表取締役
理 事 現代重工業 趙 炯來・専務取締役
理 事 ソニー 中鉢 良治・代表執行役副会長
理 事 太平洋セメント 鮫島 章男・代表取締役会長
理 事 大韓航空 李 來珪・常務取締役
理 事 帝人 長島 徹・取締役会長
理 事 東レ 榊原 定征・代表取締役社長
理 事 トヨタ自動車 渡辺 捷昭・代表取締役副会長
理 事 日本サムスン 李 昌烈・代表取締役社長
理 事 ポスコジャパン 張 炳孝・代表取締役社長
監 事 アサヒビール 池田 弘一・代表取締役会長
監 事 三井物産 槍田 松瑩・取締役会長
監 事 ロッテ建設 金 明國・取締役日本支社長
(理事・監事、企業名50音順)