韓日間の経済交流が活性化する中、韓国企業で働く日本人技術者やビジネスマンが増えている。本田技術研究所のチーフエンジニアを経て、2004年にサムスンSDI中央研究所の常務に就任、現在は拠点を東京に移し、日本サムスンに逆駐在の形で席を構えた佐藤登さんの異文化体験記をお届けする。
2008年終盤のリーマンショック以降、世界経済は急降下し、その影響による業績悪化で倒産に追いやられた企業も少なくない。あれから1年以上が経過した現在、国家間と企業間での回復には大きな差が生じつつある。
世界を牽引してきた日本の自動車業界も最大手のトヨタは依然として大幅な赤字経営に落ち入っているが、一方、自動車だけではない多角的ビジネスを手がけてきたホンダは利益が減少したものの黒字を確保しているというように、ビジネスモデルの差が明暗を分けている。トヨタは高級車系の乗用車を主力事業として展開してきた結果によるが、1997年に世界に先駆けて販売したハイブリッド車「プリウス」が、09年にはヒット商品となって販売トップになるなど、市場ニーズの急変が伺える。
ホンダのビジネスモデルは移動体の全てが対象で、したがってジェット機ビジネスまで進出した。二輪車、汎用製品、コジェネや太陽光発電事業などのエネルギー事業にも参入し、自動車企業としては異例の多角事業を手がけてきた。それが功を奏し、自動車事業が低迷しても二輪事業がカバーするなど、他の自動車企業では実現できなかった経営戦略の確かさが立証されている。
一方、韓国の現代自動車の躍進は目覚しいものがある。80年代初頭における時代、すなわち30年ほど前に遡るが、その頃、「ポニー」という乗用車が現代自動車から北米市場で販売されるに至った。当時は安かろう、悪かろうの時代で初期品質は悪くはなかったものの、半年も過ぎると品質や性能劣化などが目立つ低級品質の自動車と評価された。
その後、改善と改革が実行され、近年は販売台数ではホンダを抜き、品質面でも日本車に優るとも劣らない賞を受けるなど、昨今の躍進に注目が寄せられている。さらには、購入者が所属する企業が破綻あるいは本人が解雇された場合には、ローンの支払い義務がなくなるような販売戦略を出すなど、従来のビジネスモデルにはない新たな展開として購買層を増やした。
日本のエレクトロニクス業界ではパナソニックと三洋電機の統合、巨大企業である日立グループの慢性的な赤字経営、ソニー神話の崩壊などさまざまな再編や経営不振が継続していて、このところの円高基調で復興の兆しがなかなか見え辛い状況が続いている。
そんな中、サムスンやLGの韓国企業はウォン安基調の恩恵もあるものの、新たなビジネスを創出させるための戦略や合弁事業などの施策に入念である。
米国市場で席巻したサムスンの薄型テレビ事業でも、光源にLEDを適用した液晶テレビを「LEDテレビ」というジャンルを意識的に命名・発信して差別化戦略を打ち出した。LEDを適用したテレビは既にソニーが5年ほど前に市販したのだが、それを認知している消費者はほとんどいない。このようにことごとく、ソニー神話からサムスン神話にスライドしている。
サムスンの経営方針では今後、総売り上げ40兆円規模のビジネスを展望している。達成できるかどうかという議論ではなく、そのようなビジョンを世間に発信して実行するという意思を打ち出すところから積極的な競争原理の扉を開けつつ、その実現によって事業規模で世界トップ10入りするという野心を宣言している。
LED事業も照明分野を開拓するために既にグループ間を統合してサムスン電機とサムスン電子の合弁で09年にサムスンLED社を設立し、有機ELにおいてはサムスンSDIとサムスン電子との合弁でサムスンモバイルディスプレイ社を、リチウムイオン電池の新規事業発足のためにサムスンSDIとドイツのボッシュが合弁でSBリモーティブ社をそれぞれ08年に結成している。
このように最大限の効果を出すためのグループ内の再編や、グループを飛び越えた企業との合弁、さらにはM&Aなども実施して素早い変化を遂げている。このような方式は日本の、特に伝統的な企業では実行され難い展開であるところに違いがある。さらに韓国企業と日本企業のもうひとつの大きな違いはCEOや役員の責任体制にある。韓国企業の場合には事業に失敗した際に担当役員は責任を取らされるのが慣例であるが、日本の企業の場合には割合、責任体制が不明で結局だれも責任を取らない場合が少なからずあり、この辺りの緊張感にも違いがあるようだ。
2010年を展望すると特に新興国を中心にしたビジネス展開が台風の目となっている。この世界でも既にサムスンを始めとする韓国企業の進出は素早く、世界的な激戦が始まろうとする中で、各国各企業の今後の経営戦略がどう効果を発揮するかに世界が注目している。