日本で「韓国に学ぼう」という気運が起こっている。世論の先行指標と言うべき言論界にまず現れた。日本経済新聞は4日、「世界に躍進する韓国経済に学ぼう」と題する通常より大きな社説を掲げた。ストレートな見出しに驚いた人も少なくないだろう。それに先立って毎日新聞は2月17日付社説で「メダル獲得、中韓から学ぼう」という社説を掲げていた。これまで韓国をライバル視することはあっても、社説で「韓国に学ぼう」と提唱したのは、初めてのことではないか。金メダル6個を獲得、総合5位につけた韓国に対して金メダルゼロの日本は、少なからずショックだった。これは冬季五輪だけの話ではなく、経済でも日本の電機メーカー7社が束になってもサムスン電子1社の営業利益に追いつかず、海外市場での韓国企業の躍進に対して安価だとかウォン安のおかげだといった見方が少なくなかったが、それだけではないとの認識も広がり出した。それが「韓国に学ぼう」という論調となって現れたのだろう。何を学ぼうとしているのか。日本の放送や新聞、雑誌などのメディアに現れた言動を中心に探ってみた。そして、宿命ともいえる韓日のライバル関係は今後どうあるべきなのか考えてみた。
「世界に躍進する韓国企業に学ぼう」と題する4日付日経社説は、「韓国企業の世界市場での躍進が目立っている。電機、電子産業を中心に、日本企業の低迷を尻目に競争力格差が開く。韓国勢の強さを謙虚に受け止め、学ぶべきものは学ぶ必要があるのではないか。日本国内では目立たないが、世界に目を向けると、韓国企業の台頭ぶりに驚かされる」として「為替効果という外部要因だけで韓国企業が競争力を増したとみるのは間違いだ」と指摘した。
韓国企業の強みとして、迅速な経営判断や高付加価値の商品を集中的に投入する販売戦略、アジアやアフリカも含めた新興・途上国市場をくまなく取り込む地道な海外戦略などを挙げ、日本の課題として①業種別の再編を進め、集中投投資や海外への資源配分を強める経営戦略②産業構造の似通う日韓の企業連携③政府によるグローバル戦略の育成を提言している。
「神は細部に宿る。一生懸命に探せば、その居場所は必ず見つけられる」との出だしで始まる日経新聞コラム「春秋」(3月4日付)では、「ジュネーブ自動車ショーが始まった。しょんぼり気味のトヨタとは対照的に、現代・起亜など韓国勢の元気がいい。その強さの秘密を、日本企業はどれだけ正確に知っているか」として、MIT報告書を紹介していた。これは、日米貿易摩擦が高まった20年前、マサチューセッツ工科大学(MIT)がトヨタやソニーなど日本企業の強さの秘密を探ろうと電気、原子力、経済など30人の教授チーム組み、工場内の様子や組織を動かす工夫まで克明に描き出した報告書だ。「正体が分からない敵は恐ろしいが、種明かしができればあとは学ぶだけ」として、現代・起亜の強さの秘密を探り、学べと説いている。
日経新聞はさらに「企業 強さの条件」の第2部「サムスンに追いつけ」を3月6日付から5回にわたって連載し、「ライバルを寄せ付けない仕組みをどうつくるか。企業の知恵が問われる」として、サムスンに負けないスピード経営や10年先のブランド作りなどに取り組んでいる企業にスポットを当てている。
経済週刊誌の「日経ビジネス」(1月15日号)は「韓国4強 躍進の秘密 サムスン、LG、現代、ポスコ」と題して韓国企業の強さの秘密に迫り、「危機脱出のヒントは隣国にある」と強調している。一例がマーケティング能力のすごさ。LG電子のコーラン内臓のプラズマテレビの人気の秘密について次のように紹介している。
「イスラム教の聖典であるコーランを内蔵したプラズマテレビ――。思わず耳を疑うような商品も、2008年9月にアラブ首長国連邦(UAE)などで発売した。中東などイスラム圏では毎日コーランを読む信心深い人が多い。そこでテレビに搭載するHDD(ハードディスク駆動装置)に、全114章のコーランを内臓。文章の閲覧だけでなく、音声を読み上げたり、読みかけのページにブックマークをつけたりする機能も備えている。価格は42インチで13万円程度からと、一般的な薄型テレビよりやや高い程度だ。手頃な価格も手伝って、コーラン内臓テレビは中東でヒット。2009年に同地域で販売されるプラズマテレビで、LGが約4割のシェアを獲得する力になった。地域密着型のユニークな商品を生み出せるのは、LGマーケティング主導で商品を開発する仕組みがあるからだ」
日本メーカーの課題として「技術の押し売りより顧客が求める商品作り」や「優れた手法を貪欲に学び、磨き続ける努力」さらに「世界市場で戦うことを常に意識する」ことなどを学ぶべきと指摘している。
「週刊ダイヤモンド」(2月27日号)は「ソニー・パナソニックVSサムスン」と題して40ページにのぼる大特集を組んでいる。「ソニー、パナソニックはなぜ勝てない?」の疑問のもと様々な角度からサムスンの強さを列挙。「技術でもデザインでも日本勢を凌駕したサムスン電子のLEDテレビは、サムスンのブランド力をさらに押し上げた」と世界市場での躍進の現状を紹介、「すさまじい指導力を発揮する崔志成(チェ・ジソン)・サムスン電子CEOと伍して戦う意思を固めているのか」と日本の経営者に問うている。
「プレジデント」誌(昨年12月14日号)掲載の「なぜ日本の製造業はサムスンに勝てないのか」と題されたコラムで、伊丹敬之・東京理科大学専門職大学院教授は、「戦略的地地図や将来の見取り図を持った経営者」の重要性を指摘、サムスン電子が半導体で日本を抜いた理由について次のように述べている。
「不況期には、落ち込みは覚悟するが、競争相手よりは小さな落ち込みを狙う。しかし、そこで投資をするから好況期が来たときの成長率を市場平均より高くできる。(中略)これを好況・不況のサイクルが来るたびに何回か繰り返していると、自然にシェアが高まっていく。ついには、トップ企業を追い落とせる。問題は、このジャンプアップ作戦を取れるだけの、戦略的地図と投資余力、そして経営者の決断が企業の側にあるか、である。80年代末から90年代半ばのサムスンには、明らかにそれがあった。そして、その同じパターンを液晶でも実行し、そこでも成功したのである」
この戦略ということでいえば、政府と一体になってUAEから受注した400億㌦規模の原子力発電所があげられる。「韓国のセールス首脳外交」の成果として敗れた日本でも話題になった。評論家の田原総一朗氏は最近の講演で、このことに触れ、「日本企業は技術力はあるが世界戦略がない。政府と連携プレーをしないといけない」と語っていた。
「週刊新潮」は3月11日号で「オリンピックも経済もいつ日本は韓国に抜き去られたのか!」と題して、厳しく原因を追究し、「世界の現実を見ず、独善的ポリシーを貫く日本企業の姿は、どこか五輪勢と重なるのだ。我々日本人は今こそ立ち止まり、自らの劣化に真正面から向き合う時かもしれない」と発奮を求めた。
これまで、日本の技術や製品開発力を学ぶ韓国というイメージが強かったが、いまや一一変した。日本も韓国から学ぶべきものがあと謙虚に反省、積極的に学ぶべきだと姿勢を転換したことの意味は大きい。お互いが学び合えば、さらなる発展への相乗効果が期待できるだろう。
◆宇世界市場で韓国企業が1、2位◆
月刊「文芸春秋」2月号で、吉川良三・東大ものづくり研究センター特任研究員は、日本は「ものづくり大国」といわれてきたが、それは「神話」になりつつあるとして、世界市場における順位を次のようにあげている。
「液晶テレビ1位サムスン、2位ソニー、3位シャープ。プラズマテレビ1位パナソニック、2位LG、3位サムスン。冷蔵庫1位LG、2位サムスン、3位三洋。洗濯機1位LG、2位サムスン、3位パナソニック。エアコン1位LG、2位パナソニック、3位サムスン」