近年、液晶パネルやDRAMなどの半導体、携帯電話などのデジタル家電といった分野で世界シェアを急拡大している韓国。躍進する韓国産業界のトレンドや展望などについて、業界事情に詳しいディスプレイの専門リサーチ会社、ディスプレイバンク日本事務所代表の金桂煥氏に分析していただく。
韓国経済成長の大黒柱は輸出企業だ。特に半導体とディスプレー、自動車と船舶など、韓国を代表する製品は輸出比率がとても高く、その実績は韓国経済全体に大きな影響を与えている。韓国経済が2008年に世界を襲った金融危機からいち早く抜け出し、大きな成長を遂げることができた最大の原因は、輸出企業の実績が好調だったからだと言える。ウォン安が続いたことで、豊富な資金をもとに投資を果敢に進め、市場で確固たる足場を築いた。
このコラムでは、過去数年間に韓国企業が達成した成果について「為替レートの恩恵によるもの」とする指摘を紹介しながら、最近の為替変動が韓国の輸出企業に及ぼす影響について考えてみたい。
韓国の輸出企業は2008年から続いたウォン安により、保有外貨でばく大な為替差益が発生したため、これを品質向上と生産コスト節減のための投資に振り向けた。輸出企業は競争力をいっそう高めることができた。主力の輸出製品だけでなく、それまで実績が低調だった機械部品なども価格競争力を持つようになった。日本や米国などの企業も韓国製品に関心を持つようになり、韓国企業は品質の優秀性をアピールした。その結果、韓国の自動車部品メーカーの輸出実績(1~2月)は前年同期と比較して、欧州地域で約100%、米国では約200%の増加率を記録した。
この背景には、製品自体の優秀性とマーケティング能力などのほかに、為替要因による価格競争力の向上が奏功したことが挙げられる。ディスプレー、電子製品、自動車などの分野で韓国企業と競合している日本企業の間では、韓国企業の業績について「為替変動の恩恵が大きい」との見方が出ている。
実際、2008年9月から2009年2月までの間に、ウォンの対ドルレートは27・8%切り下がったが、同じ期間に日本の円はドルに対して10・5%も切り上がった。この結果、韓国企業の売上高と営業利益の増加率は08年以降、2年連続で上昇したが、逆に日本企業の場合は、ここ2年間で落ち込みが続いた。言い換えれば、韓国企業は日本企業より多く輸出して多くの利益を残した半面、日本企業は輸出が激減し、減益を余儀なくされたことになる。
このように韓国企業は、為替変動の恩恵により輸出を伸ばし、企業の収益性を安定させた。経済成長率も09年第4四半期(10~12月)に前年同期比6%上昇するなど、為替変動が韓国経済に有利に作用したことは間違いないといえる。
最近の為替レートは、「ウォン高ドル安」傾向を見せている。ウォン高が続くと、輸出が減り、輸入が増えるため、貿易収支と経常収支が悪化する。実際に09年第4四半期の輸出企業の営業利益率は、前四半期に比べ下落傾向を示している。
サムスン経済研究所によると、2010年の対ドルレート(年平均)は1㌦=1100ウォンで、昨年の1㌦=1276ウォンに比べ、大きくウォン高に振れる見通しだ。ウォン高は経常収支の悪化を招き、成長を鈍化させるというマクロ経済に対する懸念は論外だとしても、輸出企業や韓国産業に及ぼす影響について同経済研究所は次のように指摘している。
まず、ウォン高が続くと、精密機器、家電、情報通信などの主力産業の輸出が大きく減少する。これまでの輸出好調はウォン安の恩恵によるものであったため、その反動が大きく跳ね返ってくる。一方、日本企業と激しく競合している自動車、半導体、化学製品などは、円・ドル為替レートに左右される可能性が高い。ドルに対して円安傾向が続く場合、これらの業種に属する韓国の輸出企業は大きな打撃を受けることになる。
このシナリオ通りならば、輸出競争力が低下し、輸出が減少すると、各企業の営業利益も大きく縮小することになるだろう。しかも、営業利益の縮小により、研究開発と設備投資が困難になり、長期的に競争力を維持することも難しくなる。為替変動というものは、ある程度、事前予測が可能であり、これまで何度も体験してきたことでもある。しかし、為替変動の要因は状況により異なるため、効果的な対処方法は確立されていない。
サムスン経済研究所が指摘するように、多くの分野で韓日企業の競争は激化している。また、自国通貨の対ドルレートについてとても敏感になっている。しかし、両国は輸出に依存しながら経済成長を遂げてきたという国家ビジネスモデルを共有しているため、為替変動への対応については、それほど心配しなくてもよいかもしれない。
筆者は、日本の電子メーカーを訪問するたびに感じることがある。日本企業が韓国企業に対して、過去のような優越感を持っていないという点だ。むしろ、韓国企業が成長してきた過程と、今後、どのように成長して行くのかを学ぼうとしている。韓国企業が単純に価格競争力だけで成長を続けてきたと捉えているのではない。そして、さらなる為替変動が予想される2010年に、韓国企業はどのような事業戦略を描き、それをどのように実現させるのかを注意深く見守っている。
輸出企業が今後も韓国経済の成長をけん引していくためには、価格競争力以外に優位に立てる競争要因を確立することが必要だ。それを通じて市場における立場をさらに強めることが可能になる。革新を続けてこそ、前進し続けることができるのではないだろうか。