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2010/07/23

<トピックス>韓国に学べ~韓国・日本の成長戦略~                                                       同志社大学大学院 林 廣茂 教授

  • 同志社大学大学院 林 廣茂 教授

    はやし・ひろしげ 1940年韓国生まれ。同志社大学法学部卒。インディアナ大学経営大学院MBA(経営学修士)課程修了。法政大学大学院経営学博士課程満了。長年、外資系マーケティング・コンサルティング会社に従事。滋賀大学教授を経て、同志社大学大学院ビジネス研究科教授。日韓マーケティングフォーラム共同代表理事。著書に「日韓企業戦争」など多数。

 海外での生産比率や市場依存度の上昇は企業のグローバル化において必然といえるが、同時に国内産業の空洞化をもたらす要因ともなる。林廣茂教授は、この矛盾を緩和する方策として環境、医療福祉、観光など成長分野を育成すること、特に官・民一体の取り組みの重要性を強調する。また、この点において日韓の産業構造は類似しており、今後、成長戦略を展開する上で韓国が日本の最大のライバルになると指摘している。同志社大学大学院ビジネス研究科の林廣茂教授に文章を寄せていただいた。

 売上高や生産高の海外依存度のデータを、625社から得られた国際協力銀行『09年度海外直接投資アンケート報告』に基づいて概観する。

 全業種で、売上高の海外依存度が一段と拡大している。

 海外の売上高比率は08年度43・6%となり、02年度から約8ポイント上昇した。

 自動車(61・0%)、デジカメなど精密機械(57・1%)、電気・電子(48・4%)、一般機械(47・4%)の4業種は、日本経済の牽引車であるが、もともと海外依存度が高い。

 また、典型的な内需型産業である食料品でも、海外依存度が7・8%から18・5%へ急上昇している。全ての業種が今後も、グローバル化に成長機会を求めていることから、海外依存度は更に拡大するだろう。

 売上数量では、海外依存度はさらに高く、たとえば自動車では70%超、デジタル家電では60%超である。

 海外市場では、普及型・汎用型の中・低価格品の販売量比率が一段と高いからである。

 しかし、海外生産高比率は08年度34・5% で、売上高比率に比べて9・1ポイント低い。02年度から約5ポイントの上昇に留まっている。

 その最大の理由は、新興国での普及型・汎用型商品の生産コストは安く、付加価値の高い大型・高級商品の生産を国内に留めているからだ。

 一方では自動車や電気・電子を中心に、中・低価格商品は、需要が拡大しつつ同時に低価格競争の激化の両方に見舞われていため、海外生産比率がますます上昇している。

 私たちが馴染んできたトヨタ、ホンダ、パナソニック、シャープなどの企業群は、先進市場、新興市場を問わず、激しい価格競争とスピーディな現地対応の普及型・汎用型商品の供給競争に勝つために、海外での開発・生産を拡大している。

 反面、市場が縮小する国内での生産と雇用を減らさざるを得なくなる。既存商品分野での、国内の「空洞化」が避けられないのは、企業のグローバル化がもたらす国内の現実である。

 「日本経済新聞」(5月31日)は、企業のグローバル化の進行の結果として、「08年度は国内生産額が35兆円、雇用は96万人ほど下押しされたもよう」と、第一生命経済研究所の分析を引用して伝えている。

 「08年度の国内の製造品出荷額の約一割、国内の雇用1000万人の約一割が、それぞれ減ったことになる」。

 以前から警鐘が鳴らされていたが、大変な事態である。ますます酷くなるだろう。国際協力銀行の報告によると、日本の製造業で海外に現地法人を3社以上(内生産拠点を1社以上)持っている625社の圧倒的大多数が、今後ますます海外展開を拡大する意向を持ち、特にアジア諸国を有望市場と見ている。

 中国、インド、ベトナム、タイが有望市場のトップ4である。トップ10では、インドネシアとマレーシアが加わる。

 これらの国々の購買力が急速に上昇しており、市場拡大に応じて、現地での商品開発と生産規模の拡大は待ったなしである。日本からの輸出では、価格でも、商品のニーズ対応でも、最大のライバル・韓国企業に対して競争力に欠けるからである。

 「日本企業のグローバル化」と同時進行で、既存業種の空洞化を穴埋めして余りある新産業を軌道に乗せ、内需拡大と雇用の創出を実現しなければいけない。

 企業は、もっともっと力強くかつスピーディにグローバル化を拡大して、一つでも多くの業種で、グローバル市場での、そして特にアジアの地域市場で、寡占化競争のリーダーシップを握ってもらいたい。そこで得られる収益が新産業を開発し市場導入する原資になる。

 国内では、環境ビジネス(再生可能エネルギーや電気・ハイブリッド自動車など)、再生医療・介護・養護などの医療健康ビジネス、観光や農業再生などを柱にする地域経済の活性化ビジネスをスピーディに創造する国家戦略が必要だ。

 政府がこれらの成長分野で徹底した財政・金融支援をする、世界一高い法人税を引き下げる、などの政策を実行しなければ、企業は「人、物、金、技術」を思い切って上記分野に投資できない。

 それに、今後は新興国のインフラ整備のためのコンサルティングや、原子力発電、道路・港湾整備、鉄道建設などのこれまで内需型産業だった業種の大型輸出商談に、政府がリーダーショップをとり、官民一体で競り勝つ必要がある。

 これらの新産業・新事業を軌道に乗せて、新しい需要を創造・拡大し、将来の国際競争力の源泉とする。そうすれば、日本の経済に活力が戻り、雇用拡大、所得上昇、消費拡大の好循環が再現するだろう。

 韓国も似たり寄ったりの成長戦略を実行するだろう。両国の産業構造が類似していて、しかも国内市場規模は日本の5分の1しかないため、韓国企業の海外依存度は日本よりも遥かに高い。

 これまでは輸出が中心だったが、今後は、日本や中国との競争で、当然現地生産比率が急拡大するから、遠からず日本と同様の空洞化に直面する。

環境ビジネスの創造、健康福祉の充実、観光や地域活性化ビジネス、インフラ輸出などの全てに、韓国も待ったなしで取り組むはずだ。

 日本と韓国の技術格差はない。要は事業化競争・顧客獲得競争である。国を挙げての団結心、日本をライバルにした時の勝つまで止めない闘争心と踏ん張り、そして競争相手に優る大型の連続投資力を知っている筆者は、成長戦略の実行能力で、どちらが優れているのか判断に迷っている。

 日本の今後の成長戦略の最大のライバルも、韓国である。