北朝鮮研究の世界的な教育機関も持つ慶南大学校の朴在圭総長がこのほど、同大学名誉学位授与者らによるフォーラム参加のため来日された。朴総長に最近の韓国大学事情や韓日関係のあり方、G20首脳会議の議長国としての韓国の役割などについて聞いた。
――昨年11月にフランスのシラク財団で「紛争防止賞審査委員特別賞」を受賞されました。受賞の感想について、お聞かせください。
一生をかけた私の北朝鮮研究と韓半島の平和定着への努力が国際的に評価を受けたという点で、本当に嬉しく思っています。私が北朝鮮研究を本格的に始めた1970年代は冷戦の真っ只中にあり、当時の韓国では禁断の領域でした。72年に慶南大学校で極東問題研究所を設立し、北朝鮮をはじめとする共産圏の研究を開始したのは事実上の冒険でした。
この分野の研究は当時、国家機関に独占されていた時代であり、予想通り数多くの困難に直面しました。しかし、周囲の非難と嘲笑にもかかわらず、初志一貫、自分の道を歩んできました。過去40年の世界史と韓半島の変化をみながら、当時の私の歴史的判断は正しかったという点で大きな自負心を感じています。シラク財団の賞も、このような私の生き方に対する評価という点で感謝しています。今回の受賞は、今後も韓半島の平和と南北和解を早めるために一層尽くせ、という激励であると考えています。
――慶南大学校創立64周年を迎え、総長として大学の目標について教えてください。
わが大学の目標は、我々の志向する「教育に強い大学」の更なる充実化です。単純なスローガン性の教育でなく現実的に必要な教育を学生たちに提供し、問題解決能力を持つ人材を育てようというものです。また、他の大学と差別化された、わが大学だけの特性化も必要です。
わが慶南大学校はすでに北朝鮮分野の研究と教育で世界的にも特別な地位にあり、わが国の教育部も韓国の大学特性化事業の代表的成功事例として度々取り上げています。今後も、わが大学が韓半島の平和統一のための特性化教育という歴史的使命を果たすよう、最善を尽くす所存です。
――韓国の4年制大学は200校を超え、大学進学率は80%を超えて世界最高水準にあります。最近の韓国の大学事情をお聞かせください。
韓国社会の少子化傾向に伴って大学へ進学する学生の絶対数が減少し、韓国の大学事情は非常に厳しくなっています。大学の生存自体が大きく脅かされている状況です。それにもかかわらず、資源の乏しい「開放型小国」である韓国が国際社会で競争力を持てる分野は人的資源という観点でみると、高等教育機関としての大学の役割はいくら強調しても過ぎることはないでしょう。韓国経済の発展と民主化の牽引車となったのも優秀な人的資源だと考えています。大学事情が厳しくなっているだけに、大学の役割をより積極的に模索し、社会のニーズにより即した人材を養成することが重要と考えます。
――資源の乏しい韓国が生きる道は、優秀な人的資源を有効活用することにかかっています。高学歴者の失業問題が社会問題になっていますが、この問題に対する考えをお聞かせください。
今後も、社会全般的に高学歴化はさらに進行するでしょう。知識情報社会化の当然な流れでもあります。高学歴者の失業問題は、韓国経済が産業化から情報化、先進化へ進むうえで発生する不可避な問題ともいえます。この問題を解決するには国際競争力を備えると同時に、雇用創出を可能にする産業の育成が必要だと考えています。
韓国はIT強国とされていますが、最近アップルやグーグルのような米国企業との競争で遅れをとっています。すなわち韓国は、より創意性ある産業と企業を育成することができませんでした。高学歴者が創意的に自らの仕事に臨める社会経済的環境が重要です。学歴によって職場が決定されるのではなく、自身の適性と趣味が職場に連結する社会構造へ変わらなければなりません。大学は個人の適性に基づき一層創意的な人材を育成し、国家と社会はこれらの人材の活動空間を提供するべきだと考えています。
――日本の民主党政権誕生以降、韓日関係はより緊密化しています。菅直人首相は未来指向的な韓日関係をめざし、東アジア共同体思想を継承する一方、北朝鮮との国交正常化を追求することを表明しています。韓日関係、東アジアの今後に対する考えをお聞かせください。
このような日本内部の変化は、今後の東アジアの未来と関連して重要な意味を持ちます。日本は明治維新以来、「脱亜入欧」の思想を維持してきました。日本の民主党政権の東アジア重視政策は、日本の変化を象徴するできごとといっても過言ではありません。日本が東アジアで過去の歴史を清算し、未来指向的に東アジアの協力へ向けて努力すれば、大部分の東アジア国家は日本の政策を歓迎するでしょう。
特に、東アジアの新しい秩序形成の核心に北朝鮮問題が位置しています。日本の民主党政権が朝日関係の改善を含めた東アジア協力に向けて動く場合、韓日関係の深化発展はもちろん、東アジアの平和と経済共同体の建設にも大きく寄与できると考えています。
――今年11月、ソウルでG20首脳会議が開催されます。議長国として、韓国がすべき役割は何であると考えられますか。
G20首脳会議は、グローバル経済危機に対する多者対応です。1930年代の経済危機発生時にも「地球村」は多者協力が実現せず、結局、前代未聞の経済危機を経験しました。したがって、G20は過去の経験に対する反省の結果と考えています。今回のG20の主要議題は金融改革と通貨問題になるでしょう。
議長国である韓国は、例えば金融規制を巡る国家間の見解対立、国際社会における中国の経済的役割に関連した論争などで「中堅国家」として「調整者」の役割を果たさなければならないと思います。すなわち争点を整理しながら、実現可能な議題設定の機能を果たすことが議長国の役割だと考えます。
パク・チェギュ 1944年慶尚南道馬山市生まれ。67年米フェアリーデキィンスン大学政治学科卒。69年ニューヨーク市立大学大学院卒(政治学修士)。慶南大学極東問題研究所長、慶南大学校総長、韓国大学総長協会会長などを経て99年12月、統一部長官に就任。2000年6月の南北頂上会談を成功に導く。現慶南大学校総長。著書に「北韓外交論」「北韓軍事政策論」「北韓の新外交と生存戦略」など多数。
■シラク財団とは■
シラク財団は、フランスのジャック・シラク前大統領が主宰し、2008年6月に設立され、国際社会に貢献してきた。2009年に「紛争防止賞」を新設し、「紛争・調停・平和の専門委員会」が第1回目の対象者を選定した。審査員にはシラク氏をはじめ、アナン国連前事務総長、マイヨール・ユネスコ前事務局長らが入っている。
この度の受賞は、朴在圭氏が1972年に慶南大極東問題研究所を設立、さらにこれまで「北韓」大学院や統一館を設立して、北朝鮮についての専門家を育成するなど、北朝鮮研究に成果を挙げたこと、2000年に平壌で開かれた第1回南北首脳会談の開催に尽力し、統一部長官として随行するなど、南北の和解・協力に向けた政策を進めて韓半島の平和に寄与したことによる。
■慶南大学校の概略■
1947年創立。慶尚南道馬山市とソウル市にキャンパスがあり、文科・自然科学・師範・経商・法政・工科の6大学21学部と6つの大学院を持つ学生数約1万5000人の私立の総合大学。学内には北韓大学院があり、ソウルキャンパスには「統一館」が2004年に設立されるなど、北朝鮮研究で高い実績を誇っている。