資産規模311兆ウォンの韓国を代表する巨大金融グループ、新韓金融で突如内紛が発生した。新韓銀行が、前銀行長である申相勲(シン・サンフン)・新韓金融持ち株社長を横領と背任嫌疑で検察に告訴したのである。新韓金融グループのナンバー2が同グループの事業会社である新韓銀行から告訴されるという前代未聞の事件。グループ内の経営権争いが絡んでいるとの見方もされているが、金融界のみならず政界も巻き込んで波紋を広げている。新韓金融グループで一体何が起こったのだろうか。
ソウル中央地検に告訴されたのは、申社長と2人の前副銀行長と実務を担当した職員ら7人。容疑は、特定経済犯罪加重処罰法の横領及び背任。
新韓銀行が2日提出した告訴状によると、申社長は新韓銀行の銀行長として在任中の06年2月から07年10月にかけて、京畿道坡州(パジュ)にある総合レジャー企業の金剛山ランドと代表が同一人のトゥモローグループ3社に対して、担保不足にもかかわらず950億ウォン相当の不正融資を行い、銀行に損害を与えた。申社長はまた、創業者の李熙健(イ・ヒゴン)名誉会長に顧問料を支払ったようにみせかけ、6回にわたり計15億6000万ウォンを横領した嫌疑もかけられている。
金剛山ランドの代表は、申社長と姻戚関係にあるとされ、申社長は金剛山ランド建設資金などの貸出をするよう圧力を行使したというもの。この会社は元利金を返済できないまま、経営悪化でワークアウト(財務構造改善)に入った。これにより、新韓銀行は相当額の引当金を積んだ。
このような起訴内容に対して申社長は、①貸出は与信審査委員会が決定するものであり、私は決済もしていない②顧問料も秘書室が処理しており、私は管理していない③金剛山ランドの代表とは姻戚関係にはないと全面否定している。
告訴した新韓銀行の李伯淳(イ・ペクスン)行長は、「様々な噂が出回り、新韓を守るだめのやむを得ない選択だった」と主張。特に、特定経済加重処罰法の12条2項をあげ、「金融機関の長は金融機関の役職員が法に規定された罪を犯した事実を知った時、速やかに捜査機関に告示しなければならないとかかれている。銀行長である私がこの義務を守らなければ、組織を損なうと判断した」と説明した。
今回の内紛事態は、昨年10月とされる外部からの不当貸出疑惑の訴えが発火点になっている。だが、告訴まで10カ月以上かかっている。朴昇(パク・スン)・前韓国銀行総裁は、「なぜ今になって告訴するのか釈然としない。内部解決を経ない非正常な現象だ」と指摘する。
新韓銀行側によると、羅応燦(ラ・ウンチャン)・新韓金融持ち株会長が外部からの通報を受けて事実確認を指示したが、これを知った申社長側が妨害に出て、調査が進まなかった。李行長が今年7月に秘書室長と与信審査部長を突然交代させ、告訴を進めた。
特定経済加重処罰法に該当すると知った李行長は、申社長に自ら責任を取るように求めたが、拒否されたという。
だが、ここには権力争いの影がある。今年4月、国会法司委員会で、ハンナラ党議員が、50億円の借名口座開設に関する羅会長の金融実名制法の違反疑惑を提起した。羅会長側は、これは申社長が背後で情報を流したと判断、証拠も握ったとされる。それ以降両者の関係が急速に悪化したが、申社長は「羅会長を追い出し、会長ポストに就くため情報をメディアに流したという話は事実ではない」と否定している。
金融監督院はすでに、羅会長の違反嫌疑について現場調査に着手。羅会長が借名口座開設を指示したか共謀した場合、該当職員ばかりか羅会長を処罰対象にできるか検討しているという。20日には調査を終えるとしているが、検察捜査と絡んで、新韓金融の支配構造にも少なからず影響を及ぼす見通しだ。
今回の内紛事態は、最大株主グループ(持ち株17%)の在日同胞株主たちにとっても衝撃的だ。李行長が告訴以降、2度にわたり来日、在日株主らに事情説明にあたったが、困惑気味で「円満な解決」を求めている。
新韓金融持ち株の理事12人のうち8人が社外理事で、そのうちの4人は東京、名古屋、大阪在住の在日同胞だ。在日の社外理事を代表する形で鄭幸男アビック会長が7日訪韓、羅会長と直接1時間ほど面談し、この間の経緯などを聞き、内紛状態に遺憾の意を表明。面談後に韓国人記者団に「検察捜査結果の発表前に理事会を開くのは可能だが、解任はないもとの考える」と語ったという。
新韓金融グループは、問題を内部で解決できず、恥部を世間にさらけ出し、金融機関としての信用を損なった。株価下落も招いており、経営責任は免れないと指摘されている。来週初めには理事会が開かれる見通しだが、申社長の解任案を上程できるかが焦点だ。株主とイメージ回復のため、できるだけ早期に結論を出す必要に迫られている。
いずれにしても、検察が捜査を進行中であり、いずれ法廷で争われることになるが、金融界からは「検察と金融監督院の調査結果いかんでは、両者ともに辞任、支配構造や後継構造に大きな影響が出る」と見方も出ており、今後の成り行きが注視される。