革新(イノベーション)を私は、三段階でのAI進化またはAI発展と言い換えて理解している。採用と模倣(Adopt & Imitate)、応用と改良・改善(Adapt & Improve)、習熟と革新(創造)(Adept & Innovate)の頭文字(AとI)をとった私の造語である。革新は、他国や他社から学び、自国や自社に内部化し、新たな顧客価値を創造するプロセスの営為だ、と考えている。
今どんなに素晴らしい顧客価値でも、遠からず、新たなAI進化を誰かが起こすことで陳腐化する。だから、AI進化を永遠に繰り返しながら、企業活動は、文明や文化をより高い次元に先導する役割を果たす。
まず技術革新の三段階を、テレビを例にして、説明する。
白黒テレビやカラーテレビの技術をアメリカから丸ごと採用し模倣して、家電メーカーがテレビを日本に紹介した。テレビを通したホーム・エンターテイメントや情報の提供という顧客価値を、日本で新たに創造したのだ。Adopt &Imitateの段階だった。テレビはアメリカへの輸出品となったが、二番手で値段は安く・本家のアメリカでは「安かろう・悪かろう商品」と言われた。
学んだ技術を応用して、品質と性能を改良し、小型化・軽量化で持ち運び便利などのソフト価値を改善した。Adapt & Improveで、二番手だが「既存製品の技術改良・改善商品」が登場した。価格も適正である。ソニーの小型テレビや平面テレビがその代表で、テレビで日本勢が長らく世界を席巻した。ブラウン管(CRT)テレビが全盛時代のことだ。
習熟した技術をベースに、次々と技術革新を実現して、薄型テレビを開発した。本格発売は2000年代初頭で、つい10年前のことだ。Adept & Innovateで、「日本発、世界初のベスト商品」だった。CRTテレビを置き換えることで急成長した。先進国ではほぼすべて薄型テレビに切り替わったし、途上国でも急速に切り替わりつつある。同じホーム・エンターテイメントだが、CRTから薄型へ技術のパラダイムが大きく変わった。そしてソフト価値が改善され、美しい高画質になった。映画のスクリーン画面に近づいた。現在成長中のLEDテレビ、間もなく本格化する3Dテレビや有機ELテレビは、パネル技術のAdapt & Improve の成果であり、ソフト価値が一段と改善するだろう。
新事業開発・新市場開発で主要国が競っている太陽光発電などの再生エネルギー、リチウムイオン電池や電気自動車などは、既存の改良品ではなく、技術の新しいパラダイム革新を通した新しいソフト価値の創造だ。
アップルが仕掛けたソフト価値のパラダイム革新が特筆される。既存の技術の組み合わせの上に、端末操作・表示技術を加え、サービスの一元管理を実現して、今までになかった新しいライフスタイルを提案して、瞬く間に世界中で圧倒的な人気を獲得した。Adept & Innovate した「アメリカ発で世界初のベスト商品」である。モノとコトの新しい統合だ。革新=新しいライフスタイルの創造が、ソニーのウォークマンから発想して音楽を配信すると言う新しいソフト価値の革新を実現したiPod、携帯電話から発想して音楽・PC・デジカメなどの機能を取りこんだiPhone、さらにタブレットPCのiPadに至るまで続いている。今までになかった新しいライフスタイルを創造するネットワーク商品である。これまでの携帯電話、PCなどの単品商品を時代遅れの代物にしてしまう。
日韓のライバル企業のAI進化を整理する。韓国企業は日米の技術を採用し模倣することで、テレビや自動車のビジネスをスタートし、技術改良を続けたが、品質と性能の点で、90年代までどうしても日本勢に勝つことができなかった。
しかしサムスンが半導体で日本に勝つビジネスモデルを開発した。「巨額の設備投資を連続して価格競争で勝ち、同時進行で日本勢に先駆けて品質・性能を高める改良技術の革新を連続して、技術とコストで」日本勢を突き放した。世界市場での日韓逆転は、技術力とコスト競争力の他に、「スピード経営・信賞必罰・勝つまで止めない」経営風土を創りあげ、「グローバル市場の開拓、現地対応の商品開発とマーケティングの実践、グローバル人材の養成と前線への投入」の経営を徹底して実践したたまものだ。05年前後から日韓逆転が始まった。
この成功モデルをAI進化させて、薄型テレビで日本勢に追いつき追い越した。技術改良を続け、LEDテレビでプレミアムセグメントを開拓し、3Dテレビで日本勢に先行した。今サムスンとLGは、世界の人たちが最も好むデジタル家電のブランドである。スマートフォン、タブレットPCでは、日本勢はもはや競争相手ではなく、アップルやノキアなどの欧米勢とのAI進化の優劣を競い、グローバル覇権に向かっている。
このように韓国勢は、サムスンを筆頭に、技術革新で日本勢に追いつき、経営革新を一段と強化して日本勢に勝つビジネスモデルを創りあげたのだ。
日本勢は、新たな成長モデルを構築しなければいけない。①業界の再編成を実現して過当競争を避け連続投資力を高める、②売れる商品を造る技術経営を習得する、③現地対応の商品開発とマーケティングを徹底する、④異文化の中を生き抜いて実績をあげるグローバル人材を全世界に配置する、⑤ブランド構築のマーケティングに連続投資する、である。技術革新ではなく、経営革新こそが日本勢に今一番求められている。
大きな、大きな革新が日韓勢に欠けている。アップルが創造しているような、新しいライフスタイルが提案できるようなソフト価値の革新が、日韓勢から出てこない。モノ中心の技術革新と経営革新だけをやってきたからである。