◆低料金が電力需要を刺激、適正な料金設定が重要◆
日本では東日本大震災の影響により、3月に計画停電が行われたことは記憶に新しい。そして夏場の電力需要の高まりに対処するため電力使用制限を実施したとともに、自主的な取り組みを促したことから、計画停電そして不測の停電を避けることができた。そのようななか、日本で電力使用制限が解除された9月9日から間もない9月15日に、韓国で5時間近くにもわたる全国規模の大停電が発生した。
電力事業を所管する知識経済部は、韓国における大停電の理由として、予期できなかった9月の猛暑を挙げているが、根本的な要因は人為的に安く設定された電気料金であると考えられる。
韓国の電気料金は国際的に見て低水準である。住宅用については09年基準でOECD平均の47・8%、産業用で54・6%にとどまっている。そして日本と比較すると約2・4分の1である。また韓国の物価の推移と比較しても、82年から10年にかけて消費者物価指数が240%も上昇したにもかかわらず、電気料金は18・5%しか上がっていない。まさに物価の優等生なのである。ただし適切な方法で算定した上での電力料金であれば問題はないが、韓国の電気料金は原価すら回収できない水準である。つまり出血大サービスを行うことで電力料金を低く維持しているのである。
韓国の電気料金の算定方法には総括原価方式が採用されている。すなわち適正や原価に適正な事業報酬が上乗せされた金額が電気料金とされる。そして知識経済部が韓国電力公社から電気料金の申請を受け、電気料金及び消費者保護専門委員会の審議、企画財政部の合意を経て認可する。よって制度が通常に運用されていたら、原価回収できない事態は発生しない。
しかし電気料金の原価回収率は08年に77・7%、10年は90・2%であり、原価割れの状況が続いている。なお今年の8月1日に平均で4・9%の値上げが実行されたがこの程度の水準では焼石に水である。そして結果として08~10年の韓国電力の営業損失は6・1兆ウォンにも上っており、今年8月には、少額株主に電力料金を適切な水準にしなかった責任を問われる形で、損害賠償請求訴訟が起こされた。
電気料金が安いことがなぜ大停電につながったと言えば、低料金は電力需要を刺激するからである。01~10年の経済成長率は10年間のトータルで44%である。しかし同期間中の電力消費量は68%増加している。そしてこのような需要増に供給増が追いつかない状況となっている。その結果ピーク時の予備電力も減少し、本年1月には予備率が5・7%に落ち込み、7月には知識経済部が国務会議に「電力需給安定対策」を報告していた。つまり兆候がなかったところに大停電が突然起こったわけではなく、需要に見合った電力供給が危うい状況の中で生じた出来事であった。
電力料金が原価以下に抑えられてきた背景には物価の動きがある。07年までは比較的物価は安定的に推移していたが、08年以降は原油価格の高騰やウォン安などの影響により物価上昇率がインフレターゲットの上限を超える展開となった。そして09年には落ち着いた動きを示したものの、10年下半期以降にまた上限を超えて推移している。本来であれば金利引き上げが物価上昇の処方箋であるが、世界金融危機による景気後退から十分回復していない状況では難しく、対処療法として公共料金の凍結などで物価上昇を抑えている。
よって原油高騰により原料費が高騰する中でも、物価に強く影響を与える電気料金の大幅引き上げが避けられてきた。これは原則として総額原価方式が忠実に守られてきた日本と大きく異なる点である。もちろん必要以上の利益上乗せや、経営努力を怠ることで電力料金が高くなることは問題である。しかし今回の大停電によって、電気料金は安ければ安いほど良いというものではなく、適切な水準に設定しなければ重大な問題につながるとの教訓が得られたと言えよう。