◆57年発行のクリスマスデザインが初◆
2002年の午年以来、韓国では、女性デザイナーのパク・ユンキョンさんによるイラストのデザインの年賀切手が前年の12月1日に発行されるのが恒例となっており、2011年に関しても昨年12月1日に可愛らしいウサギの切手が発行されている。
韓国では1957年から年賀切手(58年用)が発行されているが、その最初の切手はクリスマス用も兼ねたデザインだ。韓国は、人口の4人に1人がクリスチャンといわれており、儒教の影響が色濃く残る一方で、アジア最大のキリスト教国のひとつである。
日本統治時代、キリスト教は、平安道など北朝鮮地域で盛んだったが、45年の解放後、金日成による社会主義化が進められた北朝鮮では、キリスト教会が徹底的に弾圧され(ただし、金日成の外戚一家は熱心なクリスチャンで、彼自身、幼い頃に祖母に連れられてキリスト教会を訪れたことがあると回顧録で述べている)、多くの信者が南下を余儀なくされた。
これに対して、アメリカの軍政下におかれた韓国では、占領当局がキリスト教の布教の積極的に支援したことにくわえ、熱心なクリスチャンだった李承晩の周囲に南下してきたクリスチャンが集結。
さらに、朝鮮戦争の勃発後は、共産主義の北朝鮮に対するイデオロギーとしての意味を持つようになったことで、キリスト教の社会的影響力も急速に拡大していった。
58年用の年賀切手も、そうした社会的な背景の下で発行されたわけだが、とはいえ、韓国古来の伝統的な年中行事や祭祀が衰退したわけではないから、この切手のように「年賀切手」の題材がキリスト教偏重となっていることに対しては、一般国民の違和感も少なくなかったのであろう。このため、翌58年末に発行された59年用の年賀切手では、キリスト教関連の題材は3種のうちの1種のみに限定され、66年用の切手からはクリスマスをイメージさせるデザインの切手は発行されなくなっている。
さて、韓国の年賀切手というと、最近の可愛らしいものも悪くないのだが、僕などは77年用から88年用までの、干支のレリーフを題材としたデザインの切手をすぐに連想する。
切手は、韓服を着て剣や槍をもった干支の姿を取り上げたもので、身体は正面を向き、顔を横に向けている。ただし、年によって、元ネタと思しきレリーフを忠実に再現したモノもあれば、かなりアレンジしたモノもあるので、12枚を並べてみるとちょっと雑然とした雰囲気になる。
仁川空港の到着ロビーから入国カウンターまでの間には、韓国の伝統文化を紹介する展示が飾られていて、毎回、楽しませてもらっているのだが、何年か前の年末年始に利用した時には、擬人化した干支の石像がずらっと並んでいた。かつての年賀切手のイメージと重なるような石像を見て、なんとなく懐かしい感じがした。もっとも、空港の像は3次元の立像だったから、切手の元ネタのレリーフそのままというわけではないのだが、まぁ、おおよそのイメージはつかむことができた。
その後、年賀切手のレリーフのことはすっかり忘れていたのだが、昨年、三角地の戦争記念館という思いがけない場所で十二支のレリーフを見かけた。
この連載の第1回でも取り上げた戦争記念館は、その名の通り、朝鮮戦争を中心に、朝鮮半島の戦争と武器の歴史をまとめた博物館だ。問題のレリーフは、その常設展示の片隅にひっそりと並べられていた。
最初、なんで戦争博物館に干支のレリーフがあるのかわからなかったのだが、よくよく見ると、レリーフの神獣たちは鎧をまとい、手に武器を持っている。説明板によると、レリーフは統一新羅時代のものらしいから、当時の軍装の資料として並べられていたということなのだろう。
薄暗い展示室でレリーフを見たときは、これこそがまさに年賀切手の元ネタかと思ったのだが、後で切手を確認してみたら、切手のレリーフは軍装ではなく平服だったことがわかった。
そのものずばりの元ネタには、またしても会えずに終わったわけだが、パク・ユンキョンさんのイラストによる年賀切手が一巡する2013年(2012年末)までには、なんとか、オリジナルのレリーフにご対面と相成りたいものだ。