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2011/04/08

<トピックス>「韓国企業強し」の受け止め方①                                                       同志社大学大学院 林 廣茂 教授

  • 同志社大学大学院 林 廣茂 教授

    はやし・ひろしげ 1940年韓国生まれ。同志社大学法学部卒。インディアナ大学経営大学院MBA(経営学修士)課程修了。法政大学大学院経営学博士課程満了。長年、外資系マーケティング・コンサルティング会社に従事。滋賀大学教授を経て、同志社大学大学院ビジネス研究科教授。日韓マーケティングフォーラム共同代表理事。著書に「日韓企業戦争」など多数。

◆顧客価値競争に負けた日本◆

 昨年9月以降、「韓国はなぜ強いのか?」「日本企業は韓国勢にますます突き放されるのか?」といったテーマでの講演、寄稿論文、座談会を通して、多くの企業人と意見交換をした。そのいくつかをシリーズで紹介する。

 全体を通した私の印象はこうである。「韓国企業が、朝目覚めたら、とつぜん強大になっていた」などありえないのだが、昨年初頭来の「韓国勢強し」のニュースは、多くの日本人には「青天の霹靂」だった。「日本企業が韓国勢に負けるとは、思いもよらぬこと、あり得ないこと」だった。しかし、次々と入ってくるニュースは、世界中でサムスン電子がソニーを突き放し、現代自動車がトヨタやホンダに肉薄・追い越していると伝えている。そうだとしても、「すぐに日本勢が抜き返すにちがいない」。「韓国企業強し」を認めたくないのだ。

 決まりのように二つの反論がきた。「韓国企業は日本の二番煎じの技術を使って二流品を作り安い値段で提供している。世界の一流企業とは言えない」「ハイテクの部材を日本企業に依存しているから、日本企業に追いつけるわけがない」

 最初の反論に、こう答えた。「いま、ソニーとサムスンの液晶テレビが店頭で同じ値段で販売されていたら、世界中の人たちは、日本人を除いて、サムスンを買います。世界一美しいテレビという賛辞はサムスンのものです。ブランド・イメージもサムスンがずっと高い」と。裏付けデータもある。スタート時の技術は日本をベンチマークしたが、サムスンは、それを応用・革新、習熟・創発して日本を追い抜いた。世界中の賛辞がサムスン品質に集まっている。

 二番目の反論には、次の事実を伝えた。「アップル」のスマートフォンやタブレット型端末は、日韓台製の部品でできている。アップルには部材技術がない。しかし、その完成品である「アイフォン」「アイパッド」に世界の称賛が集まっている。これまでなかった新しいITライフを提供しているからだ。

 「エニーコール」(携帯電話)や「ボルドー」(液晶テレビ)は、日本勢の部材を使っているが、世界の支持は完成品を提供するサムスンに集まっている。不足している素材・部材技術を補って余りある性能・機能品質とイメージ品質を提供しているからだ。

 世界中の顧客の強い支持が集まる企業とその商品ブランドが「強い」のだ。ソニーやパナソニックはかつて、欧米の二番煎じの技術からスタートして、ブラウン管カラーテレビや携帯音楽プレイヤーで世界一のブランドになった。今、サムスンやアップルが、日本企業が先駆けた半導体技術やパネル技術を利用して、日本企業が創造できなかった新しい顧客価値を商品化して世界の頂点に立っている。

 「彼を知りて己を知れば、百戦して殆(あや)うからず。彼を知らずして己を知れば、一勝一負す。彼を知らず己を知らざれば、戦う毎に殆うし」(孫子)。

 上の二つの反論は、韓国勢を観る眼と自己を診る眼の両方が曇っていることを示している。

 こんな質問もあった。「日本の電気・電子や自動車メーカーは、このままずるずると押し込まれて、世界の二流・三流企業に落ちてしまうのか?」

 半導体、液晶パネル、液晶テレビなどで、先発した日本勢が今では韓国勢に突き放されている。今後の成長分野である太陽光発電やリチウムイオン電池でも、韓国勢が追いつき・追い越す構図になりつつある。小型・中型自動車は日本勢が世界トップだったが、トヨタを除く日本勢が現代・起亜グループに追い抜かれ・突き放されつつある。トヨタの背中も近づいている。

 共通した「日本勢の負けパターン」がある。「韓国勢の勝ちパターン」と言い換えてもよい。導入期は日本勢が先行・先発し、断トツの世界一だった。韓国勢が後発参入し、成長期に入ると、好況・不況を問わず巨額・連続の設備投資をして、コストリーダーシップを獲得した。日本勢に比べ品質はいま一つだが、値段は格段に安く、急拡大する世界の中間層から大きな支持を得て、品質・値段共に高く留まっている日本勢の足元を大きく崩した。その間、品質を日本勢と肩を並べるまでに高め、全世界でブランド・イメージを向上させて、世界中で日韓逆転を実現した。

 成熟期の革新のスピードで、韓国勢の背中が更に遠ざかる。ソニーが技術で先行したがビジネスにできなかったLEDテレビを、プレミアム品として成功させた韓国勢が日本勢を一段と突き放した。3Dテレビは、韓国勢が先行した。このパターンで日本勢は負け続けてきた。半導体、液晶パネルでは、負け戦の結果、業界の再編成・規模の縮小、そしてニッチ分野に特化した生き残りを余儀なくされている。そして、汎用品を、世界寡占化に成功した韓国勢・台湾勢に依存している。

 薄型テレビでも間もなく業界の再編成が起こり、台湾や中国でのEMS(電子部品の受託製造サービス)製造生産委託が急拡大するだろう。

 日韓逆転は、「技術でもマーケティング戦略でも、先行者・日本が市場のリーダーシップを握る」という競争戦略の一般理論を、韓国勢が覆したことのあかしである。商品力(機能・性能と、デザイン・イメージの両方)とマーケティング投資力(広告・宣伝、営業など)のいずれか、または両方で、後発者・韓国の追撃戦略が成功した。先行者に倍する努力と投資の成果である。これが、日本に勝つまでやり抜くハンター・韓国勢の強さである。日本勢はこの負けパターンを断ち切らねばならない。