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2011/06/10

<トピックス>私の日韓経済比較論 第5回                                                       大東文化大学 高安 雄一 准教授

  • 大東文化大学 高安 雄一 准教授

    たかやす・ゆういち 1966年広島県生まれ。大東文化大学経済学部社会経済学科准教授。90年一橋大学商学部卒、同年経済企画庁入庁、00年在大韓民国日本国大使館二等書記官、00~02年同一等書記官。内閣府男女共同参画局などを経て、07~10年筑波大学システム情報工学研究科准教授。2010年より現職。

  • 私の日韓経済比較論 第5回

    韓国の大学の授業風景

◆韓国の大学進学率上昇◆

 韓国では1981年まで10―20%台の高いインフレ率が続いていた。しかし82年以降の経済安定化政策によってこの事態は終息し、80年代中盤以降は安定的な物価上昇率で推移しているなど、インフレの克服に成功した。しかしながら現在、新たなインフレ、「学歴インフレ」が進行している。

 専門大学も含む大学進学率は、90年で男性31・5%、女性28・7%であったものが、2010年にはそれぞれ77・3%、80・3%に急速に高まっている。

 韓国政府の発表によれば2010年に高校を卒業した人の79・0%が大学に進学しており、日本政府が公表している大学進学率の56・8%と比較して著しく高くなっている。

 ただし専門大学を日本のどの教育機関に相当すると考えるかによって、結果が変わってくる。

 専門大学を日本の高専後期課程と短期大学に相当するとすれば、政府発表のとおり20ポイント以上韓国の大学進学率が高いことになるが、専門大学が日本の専修学校の専門課程まで含むととらえれば、日韓の大学進学率の差は6ポイント程度にまで縮まる。とはいっても韓国の大学進学率が高いことには変わりがなく、多くの若者が高等教育を受けていることとなる。

 経済学的に考えれば大学進学率が高まれば、人的資本がより多く蓄積され、これが潜在成長率の上昇に寄与する。つまり大学進学率の上昇は、韓国経済の成長のためには望ましいと考えられる。しかしこれはあくまでも、大学教育を受け人的資本を高めた労働力が、その人的資本を十分発揮できる高度な職業に就くことが前提とされている。

 しかしながら通貨危機以降、主に大企業を中心にリストラを進めており、従業員数は97年の157万人から02年には125万人と32万人減少している。そしてリストラの方法としては、名誉退職などにより中高年を切るよりも、新規採用を絞る方法が一般的であったため、新卒の大企業への入社は狭き門になっている。もちろん大企業での仕事が、必ず人的資本を十分発揮できる高度な仕事であるわけではないが、より高度な仕事ができる可能性は高いと考えられよう。

 現在は進学率の上昇により大学卒業者は量産されているが、それを受け入れる高度な職場は少なくなっており、仕事のレベルを落とした職業に就かざるを得ない大卒生が増えている。つまり一昔前であれば高卒が行っていた仕事を、現在は大卒が行っていることが多い。そもそもインフレとは通貨の価値が下落することで、同じ額面の通貨で購入できる財・サービスが少なくなることである。現在の韓国ではこれと同じ状況が学歴で起こっている。

 すなわち大学卒の価値は下落しており、従来は大学卒の資格で得られた仕事が、大学卒の資格だけでは得られなくなっているといった、まさに学歴インフレが生じている。

 さらに深刻な事態として、大卒の非正規職としての就職が多くなっていることを挙げることができる。「経済活動人口調査青年層付加調査」の個票データを利用して、四年制大学の卒業生の就職先を雇用形態で見ると、非正規職として就職する人の比率が3割を超えており、特にリーマン・ショック後の09年以降の卒業生は4割以上が非正規職として働いている。

 一般的に非正規職が行う仕事は定型的な単純作業であり、高い人的資本を必要としない場合が多い。つまり学歴インフレの下では、多くの大学卒業者が人的資本を蓄積したにもかかわらずそれを活かせず、人的資本が浪費されていることになる。

 人的資本の蓄積には、大学に対する公的な補助、家計が大学に支払う授業料、またその獲得のために費やした時間など多くの金銭、時間が投入されている。これら貴重な資源が浪費される学歴インフレは、現在の韓国で憂慮すべき事態の一つであろう。