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2012/01/20

<トピックス>私の日韓経済比較論 第12回 韓国と北朝鮮の経済格差                                                       大東文化大学 高安 雄一 准教授

  • 大東文化大学 高安 雄一 准教授

    たかやす・ゆういち 1966年広島県生まれ。大東文化大学経済学部社会経済学科准教授。90年一橋大学商学部卒、同年経済企画庁入庁、00年在大韓民国日本国大使館二等書記官、00~02年同一等書記官。内閣府男女共同参画局などを経て、07~10年筑波大学システム情報工学研究科准教授。2010年より現職。

  • 私の日韓経済比較論 第12回 韓国と北朝鮮の経済格差

    南北合同事業の象徴「開城工業団地」

◆国民総所得(GNI) 韓国は北朝鮮の72倍◆

 昨年12月、金正日総書記が急死し、金正恩氏が後継者として新体制が築かれつつある北朝鮮であるが、今のところすぐさま大きな変化があるようには見えない。しかし北朝鮮の指導者がだれであれ、韓国経済を長期的に見る上で、南北統一の可能性について目をそらすことはできない。

 もし南北が統一した場合、韓国には統一費用が発生する。統一費用については、統一の時期、どのような過程を経て統一するのか、北朝鮮の住民の生活レベルをどの程度まで引き上げることを目標とするのかなど、前提条件によって大きく結果が異なる。よって統一費用については、それぞれ参考程度に眺めるしかないのが現状である。

 しかし一つ言えることは、統一が遅くなるほど韓国との経済格差が拡大して、他の事情を一定とすれば、統一費用が膨らむことである。そこで現在の南北経済格差の程度について見ていきたい。

 南北経済格差を知る上で最も手っ取り早い方法は、韓国銀行が推計している北朝鮮のGDP関連指標で経済規模を比較することである。同銀行が公表した「2010年北朝鮮経済成長率の推計結果」によると、韓国の名目国民総所得(GNI)は北朝鮮の39倍、一人当たり国民総所得は19倍である。

 しかし韓国銀行の推計では南北の経済格差を過少推計してしまう。韓国銀行の推計方法は以下のとおりである。まず北朝鮮における財・サービスの生産量の推計をもとに、これに各財・サービスの韓国における価格を乗じる。そして韓国の付加価値率を乗じることで、各財・サービスの付加価値額を推計し、これらを積み上げ全体の国内総生産(GDP)を導出している。さらにこの数値からGNIも算出している。

 しかし最大の問題点は、推計の際に韓国の価格を使っていることである。品質が大きく劣ると考えられる北朝鮮の財・サービスに韓国の価格を使えば、当然のことながら北朝鮮のGDPやGNIは過大評価となり、南北格差は過小評価になる。

 韓国銀行以外で定期的に北朝鮮のGDP関連指標を推計している機関は、国連統計局である。同機関は過去に北朝鮮が国連に報告したGDPをもとに、推計作業を行っている。ただし、そもそも北朝鮮が報告したGDPがどのように推計されたか明らかではないし、国連統計局もどのように推計しているのか明らかにしていない。

 また公的機関より定期的に推計される数値に限定しなければ、最近の推計値として、ソウル大学のキムビョンヨン教授の推計、また現代経済研究院の推計が利用できる。推計方法は明らかにされているが、それぞれ問題点がある。

 国連統計局、キムビョンヨン教授、現代経済研究院の推計はそれぞれ一長一短があり、一つに絞る決め手はない。よって3つの推計値の平均値で改めて南北比較を行う。全ての数値がそろっている最新の年である07年の一人当たりGNIの推計値は、国連統計局が611㌦、キムビョンヨン教授が471㌦、現代経済研究院が647㌦(一人当たりGDP)である。3つの推計の平均値をとると、一人当たりGNIは576㌦である。またこれに北朝鮮の人口を乗じて、GNIを算出すると134億㌦となる。これら数値に基づくならば、韓国のGNIは北朝鮮の72倍、一人当たりGNIは35倍である。韓国銀行の推計値をもとに行った南北比較より格差が大きくなっているが、こちらの結果が実勢に近いと考えられる。

 統一研究院が公表した「ドイツ統一20年と朝鮮半島統一ビジョン」によると、ドイツの統一当時における、西ドイツの一人当たりGDPの水準は東ドイツの3倍であり、90年から05年までの統一費用は1兆4000億ユーロである。これは05年におけるドイツの名目GDPの62%に相当する。一人当たりのGDPが3倍に過ぎなくても、これだけの統一費用がかかったことを勘案すると、韓国における相対的な統一費用はこれ以上であることは容易に想像できる。また詳しく紹介しなかったが、南北格差は年々拡大しており、今後は統一時の費用負担は増える一方であると考えられる。

 金正日総書記の死去により、統一の可能性が高まったとは即断できないが、統一した場合のショックはドイツのケースとは比べ物にならないことは間違いなさそうである。