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2012/02/03

<トピックス>私の日韓経済比較論 第13回 韓国と北朝鮮の経済格差                                                       大東文化大学 高安 雄一 准教授

  • 大東文化大学 高安 雄一 准教授

    たかやす・ゆういち 1966年広島県生まれ。大東文化大学経済学部社会経済学科准教授。90年一橋大学商学部卒、同年経済企画庁入庁、00年在大韓民国日本国大使館二等書記官、00~02年同一等書記官。内閣府男女共同参画局などを経て、07~10年筑波大学システム情報工学研究科准教授。2010年より現職。

◆経常収支黒字続く韓国◆

 1月25日、日本の貿易収支統計が公表され、2011年は31年ぶりに赤字となったことから、マスコミでセンセーショナルに取りあげられた。この赤字は、東日本大震災、原発事故の影響による火力発電用燃料の輸入急増といった特殊要因に加え、円高が重なったためと説明されている。また貿易収支は赤字でも、所得収支の黒字は拡大傾向にあり、経常収支が赤字に陥ることはなさそうである。

 よって経常収支で見れば黒字が維持され、貿易収支も一時的な要因で赤字になったに過ぎないわけであり、これが日本の落日の始まりであるかの如く、悲観的になる必要はない。

 貿易収支や経常収支で一喜一憂するのは日本だけではない。韓国では、97年末に発生した通貨危機の要因の一つが、経常赤字の持続であったことから、ことさら経常収支の動向に敏感である。韓国では98年に経常収支が黒字に転じてから、11年まで黒字を維持している。

 ただし経常収支黒字は常に盤石なものであったわけではない。世界経済が減速した08年には、一時、韓国銀行は経常収支が赤字になると見通すなど、経常収支の黒字幅が大きく減少した。結果的には08年も、黒字を維持したが、当時は、韓国経済危機説がマスコミなどで取り上げられた。

 しかし経常収支は毎年の数値を見て一喜一憂するべきものではない。長期間赤字が続き、対外債務が増加する場合には、何らかの対処が必要といった、中長期的に観察すべき指標である。経常収支は短期的には、世界景気、原油価格など様々な要因によって左右されるが、中長期的には貯蓄投資バランスによって決定される。

 よって貯蓄投資バランスから見て、経常収支が黒字となる状態であれば、単年で赤字になることはあっても、それは長続きしない。

 貯蓄投資バランスと経常収支との関係はいたってシンプルである。一国の総貯蓄が総投資を上回れば(貯蓄超過)、経常収支は黒字、逆であれば赤字となる。そして10年以上、韓国の経常収支が黒字である背景にも、継続した貯蓄超過がある。

 貯蓄投資バランスについては、家計、企業、政府が重要である。家計は貯蓄超過、企業は投資超過となる。政府は財政収支によって状況が異なり、財政黒字ならば貯蓄超過、赤字ならば投資超過となる。

 韓国では財政は健全であるため、政府はほぼ一貫して貯蓄超過の状態にある。経常収支が慢性的に赤字である国の多くは、財政赤字の状態にあり、投資超過になっていることが多いが、韓国はそのような状況にはない。

 しかし通貨危機以前は、企業の投資超過幅が大きく、対GDP比で15%近くにまで達していた。一方、家計の貯蓄超過幅も小さくはなかったが、10%前後で推移していた。よって家計の貯蓄以上に、企業が投資しており、全体で投資超過となっていた。

 通貨危機以前の韓国は慢性的な経常赤字に悩んでいたが、その背景には企業の過剰な投資があった。この状況が危機以降一変した。企業の投資超過幅が縮小し、家計の貯蓄投資幅にほぼ見合った水準となった。そこに政府の貯蓄超過が合わさって、全体では貯蓄超過となった。

 そして通貨危機の発生以降は、若干の変動はあるものの、家計の貯蓄超過を、企業の投資超過が相殺し、政府の貯蓄超過によって全体が貯蓄超過となる構造が続いている。

 しばらくの間は、貯蓄超過を背景とした経常収支の黒字が続くであろうが、長期的には経常収支が赤字基調となる可能性が高い。

 まず政府の貯蓄超過には、中央政府の健全財政のみならず、年金基金が大幅な黒字であることが寄与している。これは年金制度が成熟しておらず、年金基金の支出額が小さいからである。

 しかし年金制度の成熟とともに、年金基金の黒字は縮小することは間違いない。また高齢化が早いテンポで進んでおり、家計の貯蓄超過幅も縮小することが予想される。

 韓国の経常収支の黒字はしばらく続き、毎年の動きに一喜一憂する必要はないが、将来的には赤字に陥ることは覚悟しなければならないだろう。